今回は、相続対策のための「現状と問題点の把握」の進め方などを見ていきます。※本連載は、公認会計士・税理士で、経営塾「未来ネット」を主催する、税理士法人みらい・辻中修氏の著書『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版 』(三恵社)の中から一部を抜粋し、相続に関する基礎知識から実際の相続対策、国際税務の概要までやさしく解説していきます。

一人で行うのは困難な「相続」…人間関係にも見直しを

前回の続きです。

 

(2)環境の構築

相続に関する法令は多岐にわたり、特に税法に関しては毎年改正されます。また、相続は一人で行うことは困難であり、相続人間の話し合いや専門家の助けが必要になる場合もあります。そこで、次のような環境を構築し、円滑に相続がすすむようにすることが必要となります。

 

①相続に関する理解と改正に注意

相続対策を立てるには、相続に関しある程度の理解が必要です。また、相続対策を立てたとしても、それは対策を立てた時点の法令に基づいたものであり、民法や税法が改正された場合には、それに合わせて修正が必要となります。特に、税法は毎年改正されますので注意が必要です。

 

②利害関係人との良好な関係

相続は一人で行うのではなく、相続人間の話し合いで行われます。相続人間の関係(その親族を含む)、相続人の金銭欲や生活環境等により、相続の結果は異なります。このため、他の相続人やその親族等との関係を日頃から良好なものにし、円満な話し合いができる環境にして下さい。

 

③気軽に相談できる専門家を置く

相続に関する法令は、きわめて専門的な事項もあります。書式、添付資料、期限、財産評価、税金計算、納税方法等の手続きを誤ると取り返しのつかない結果になる場合が多くあります。このため、身近なところに気軽に色々なことを相談できる専門家を置き、問題の発生を未然に防止するようにして下さい。

相続内容を明確にして「整理」することが重要

(3)相続対策のための準備

相続対策を打つためには、現状と問題点の把握が必要です。そこから、問題点を解決する対策案を検討し、具体策を策定し、実行していきます。

 

①相続人等を確認する

相続は相続人及び受遺者(遺言により遺産を取得する者)間で行います。このため、相続人や受遺者となる人の確認が必要となります。また、一次相続だけでなく、二次相続における相続人と受遺者も確認して下さい。二次相続の場合、配偶者の税額軽減規定の適用がなく税金負担が多くなり、また両親とも死亡しているため、遺産分割において相続人間の争いが多くなる傾向にあります。

 

また、相続人や受遺者が被相続人の一親等の血族(その代襲相続人を含み、代襲相続人でない孫養子を除く)及び配偶者でない場合は、相続税の2割加算の適用があります。

 

イ、戸籍謄本での確認

法定相続人は、(生まれた時からの)被相続人の戸籍謄本に記載されています。嫡出子だけでなく、養子縁組で養子となった子、認知した非嫡出子も戸籍謄本に記載されています。

 

ロ、受遺者の確認

受遺者は遺言書で確認できます。被相続人が特定の者に遺産を渡すことを指示したものが遺言書であり、遺言により、特定の者に財産を相続させることができます。この特定の者を受遺者といいます。

 

②相続財産の確認

相続財産には、土地、建物、有価証券、預金等の資産ばかりでなく、借入金、未払金等の債務も含まれます。このほか、被相続人の勤務先から支払われる死亡退職金、保険契約に基づいて支払われる生命保険金等も相続税法上の相続財産となります。

 

さらに、相続税の課税財産には相続開始前3年以内贈与財産、相続時精算課税適用贈与財産も含まれます。相続財産の確認・整理のため、相続財産リストの作成が望まれます。そのリストには、一次相続財産だけでなく、二次相続財産も含めて記載し、二次相続対策も同時にできるようにすることが実務的です。

 

財産リストの作成にあたっては、資産、負債、みなし相続財産を項目別に記載し、その評価額、予定受取人等を一覧表形式にすることで、わかりやすく検討しやすいものにして下さい。

 

③相続税の概算税額と納税

財産リストができたら、相続税の概算税額を計算し、その納税ができるかどうかを検討します。

 

相続人等に財産を相続させても、納税資金がない場合には、相続財産や手持ちの財産を売却し納税するか、銀行等から借入をして納税することになります。銀行等からの借入金の返済ができない場合には、相続財産等を処分し、返済することになります。非上場株式のように相続財産が処分しにくいもの、また居住用家屋のように処分したくないものが相続財産である場合、処分も難しく、納税や借入金返済に困る場合があります。

 

④    遺留分の検討

被相続人が遺言で特定の者に財産を相続させようとしても、法定相続人(兄弟姉妹が法定相続人の場合を除く)には遺留分があり、遺留分の減殺請求により、法定相続人は相続財産の分割を請求できます。どんなに仲の良い親族でも、金銭が絡むと事情は異なります。この遺留分が実行された場合を想定し、問題点を検討して下さい。

 

遺留分に関しては、生前に放棄の手続きができます。この遺留分の放棄は、遺留分を有する本人の意思に基づいて、家庭裁判所に申請することにより行います。

 

⑤    問題点の整理

以上のことから、一次相続の問題点、二次相続の問題点を明確にし、問題点を整理し、一覧表にします。

本連載は、2016年12月9日刊行の書籍『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よくわかる! 相続への対応 改訂増補版

よくわかる! 相続への対応 改訂増補版

辻中 修

三恵社

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