今回は、相続人間で「争い」が起きる原因とその対策を見ていきます。※本連載は、公認会計士・税理士で、経営塾「未来ネット」を主催する、税理士法人みらい・辻中修氏の著書『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版 』(三恵社)の中から一部を抜粋し、相続に関する基礎知識から実際の相続対策、国際税務の概要までやさしく解説していきます。

分割の不平等、相続人の不仲…相続争いの原因は様々

争続対策

 

争続対策は、相続人・受遺者の問題、遺産分割の問題、遺言と遺留分の問題等を解決し、相続人間の遺産分割を円満にすすめるためのものです。

 

(1)争いの原因

 

なぜ、相続人間で争いが生じるのか、その原因として一般にあげられる事項は次のとおりです。

 

1 財産の分割が相続人間で平等でない

2 相続人(その配偶者等を含む)間で仲が良くない

3 人間の欲望には際限がない

4 財産が少ない又は1つしか分ける財産がない

5 遺言書もなく、故人の遺志がわからない

6 故人の遺志(遺言)に反し、遺留分の減殺請求権が行使される

 

(2)争続への対策

 

争いの原因のうち、上記2及び3について

 

これに関しては、各人の人間性にかかわる問題であり、長年の様々ないきさつや環境で形成されたものであるため、一朝一夕に改善できる問題ではありません。

これに対する対策として、実務では次のような方法を採用しています。

イ、相続人の中で人望があり信頼されている人を中心に相続を進める

ロ、長年多くのことを相談してきた会計士・税理士に仲立ちをしてもらう

ハ、お互いに弁護士を立て、合理的に相続を進める

 

遺言と財産の分割

 

イ、遺言書の作成と遺留分の放棄

先祖の祭祀を継ぐ者、介護を依頼する者又は事業を継承する者を明らかにし、その対価として相続させる財産、過去相続人に贈与した財産(特別受益)金額、事業用財産の形成に対する寄与分等を具体的に遺言書に記載し、この特別受益や寄与分を考慮して、個別具体的にどの財産をだれに相続させるかを遺言書に記載することが望まれます。

 

遺言書があっても、遺留分の減殺請求権により、遺言どおりに遺産分割が行われない場合があります。このような場合には、次のような方法があります。

 

(イ)遺留分の減殺請求相当額を現金等で用意する方法

(ロ)遺留分の減殺請求権を有する本人を説得し、一定の金銭を渡し、遺留分の放棄の手続きをとる方法

 

ロ、遺言書の変更

当初予定したとおりに相続人となる者が行動しない場合(介護を期待したのに一切介護をしない場合、事業承継を期待したのに継がない場合等)には、遺言書を新たに作成し、前の遺言を無効にすることで対応できます。

遺言書も有効だが、作成にあたっては注意が必要

分ける財産がない


現在相続人と同居している自宅のみが相続財産という場合があります。相続人が一人であるならば問題ありませんが、相続人が複数いる場合には問題が発生する可能性があります。相続人間の話し合いで円満に解決できる(できる見込である)場合には問題ありませんが、そうでない場合には、次のような対策があります。

 

イ、遺言書を作成し、自宅を相続する者を指定する方法

この場合、他の相続人から遺留分の減殺請求がある場合には、金銭等による解決が必要となります。

これを回避するため、被相続人が自宅を相続しない他の相続人に対し、状況を説明し、納得させることが得策です。また、金銭を渡し、遺留分の放棄の申請を家庭裁判所に行うのも一つの方法です。

 

ロ、生前に贈与する方法

この場合、生前贈与は特別受益となり、他の相続人から遺留分の減殺請求がある場合には、金銭等で解決する必要が生じます。

 

ハ、 自宅を相続させる予定の者に自宅を譲渡する方法

この場合には、自宅購入資金が必要になり、資金手当てや資金返済を考える必要があります。親子間の金銭貸借の場合、適正な返済期間や金利が設定されない金銭消費貸借契約は、税務上問題となります。

 

ニ、その他の方法

上記イ~ハの方法が取れない場合、相続に当たり、他の相続人に相続分に相当する金銭を渡すか、又は自宅を売却し、その売却代金でもって金銭による解決を図ることになります。

 

遺言書がないために遺産分割でもめる

 

多くの相続では、被相続人の遺志を尊重して、相続人間で遺産分割を行うのが一般的です。このため、生前に遺言書を作成し、どの相続人にどの財産を与えるかを明確に指示し、後日できるだけ争いが生じないようにすることが望まれます。

 

遺言書には、自筆証書遺言書、秘密遺言書、公正証書遺言書があります。それぞれ一定の法的要件を具備しない場合、無効となることがあります。遺言書の種類の選定、遺言書の作成にあたっては、十分に注意が必要です。

 

また、作成した遺言書の紛失、作成した遺言書を探し出せない、さらには遺言書が書き換えられたりする場合もありますので注意して下さい。

本連載は、2016年12月9日刊行の書籍『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よくわかる! 相続への対応 改訂増補版

よくわかる! 相続への対応 改訂増補版

辻中 修

三恵社

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