今回は、相続対策を立てるには「贈与税」の知識が不可欠な理由を見ていきます。※本連載は、公認会計士・税理士で、経営塾「未来ネット」を主催する、税理士法人みらい・辻中修氏の著書『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版 』(三恵社)の中から一部を抜粋し、相続に関する基礎知識から実際の相続対策、国際税務の概要までやさしく解説していきます。

相続税と贈与税は「相互補完」の関係

1.概要

 

贈与税は、個人が不動産、株式、現金などの財産を無償で取得した場合のほか、受けた経済的利益が実質的に贈与と何ら変わらないもの(みなし贈与財産)について課される税金です。

 

(1)相続税との関係

 

相続税と贈与税は相互補完関係にあります。つまり、子孫や配偶者に財産を生前に渡す場合には贈与税が課され、死亡時に渡す場合には相続税が課税されます。また、贈与税に適用される税率の累進性を相続税に適用される税率の累進性よりも高くすることで、財産の移転を生前にするか相続時にするかの選択において、相続時を選択した場合に税負担が不利にならないようにしています。

 

この補完関係だけでなく、さらに相続税と贈与税の関係を一体化した税制として次のものがあります。

 

①相続開始前3年以内贈与の加算

 

相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産は相続税の課税財産となり、加算される財産に関し納付した贈与税がある場合、その贈与税は相続税から控除されます。

 

[図表]相続開始前3年以内贈与加算

 

②相続時精算課税

 

生前に相続時精算課税の適用を受けた贈与財産は、その全てが相続税の課税財産となり、納付した贈与税は相続税から控除されます。

 

このように、相続への対応を考える場合、贈与税と相続税は相互に関連しており、贈与税に対する理解が必要となります。

口頭や書面で行うことも可能な「贈与の意思表示」

(2)贈与とその種類

 

①贈与契約

 

贈与は、贈与者が自己の財産を無償で与える意思表示をし、受贈者がこれを受諾することにより成立する契約のことです(民法549条)。

 

贈与の意思表示は、口頭や書面で行うことができます。口頭による贈与はいつでも取り消すことができますが、書面による贈与は受贈者の同意等がなければ取り消すことができません。

 

②贈与の種類

 

贈与には次の種類があります。

 

イ、通常の贈与

 

通常、個人が自己の有する財産を無償で与える意思を表示し、受贈者がこれを受諾することにより成立する贈与をここでは通常の贈与といいます。

 

ロ、負担付贈与

 

例えば、土地を贈与すると同時に、第三者への金銭支払義務を負担させるように、受贈者に贈与の目的と対価関係にない一定の給付義務を負わせる贈与を負担付贈与といいます(民法553条)。

 

ハ、死因贈与

 

贈与者の死亡により効力を生じる贈与を死因贈与といいます(民法554条)。死因贈与により財産を取得した場合、死亡を原因とすることから相続税の課税財産となります。

 

ニ、定期贈与

 

例えば、毎年末100万円を贈与するというように、定期的に一定の給付を目的とする贈与を定期贈与といいます(民法552条)。定期贈与の場合、贈与期間の定めがない場合には贈与者又は受贈者の死亡によりその効力を失います。

本連載は、2016年12月9日刊行の書籍『 よくわかる! 相続への対応 改訂増補版』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よくわかる! 相続への対応 改訂増補版

よくわかる! 相続への対応 改訂増補版

辻中 修

三恵社

相続に必要な知識、相続の手続き、相続財産の名義変更、遺言書や遺留分、寄与分や特別受益、遺産分割、財産の評価、非課税財産、延納・物納や納税猶予、海外の相続税等。申告・納税と相続対策:相続税の申告書を提出しなければ…

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