今回は、前回に引き続き、新規事業の頓挫によって取引銀行の態度が急変した、ある企業の事例を見ていきます。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。

「明日から元金返済をスタートさせていただきます」

前回の続きです。

 

"晴れた日に傘を貸し、雨の日に傘をとりあげる。”
銀行とのつきあいが長いほど、切実に感じることと思います。
銀行のその体質は、今も何ら変わっていないのです。

 

新規融資を受けて始まるはずだった事業が頓挫し、
その経営者はいきなり銀行支店に呼び出されました。
「いつもは銀行が会社に来ていたのに、急に態度を変えやがって!
 しかも、今すぐ来てくれ!だなんて・・・。」
と、その態度の変わりように怒りを覚えながらも、
急遽、銀行へ出向いたのです。

 

到着後、経営者は支店長室に案内されました。
銀行支店長は厳しい表情で開口一番、こう言いました。
“御社の新規事業に備えて融資している資金ですが、
一部を早期返済いただき、残金は組み直して、
明日から元金返済をスタートさせていただきます。”
その新規融資は、約1年前に実行されていました。
そのとき、その支店長は、笑顔で次のように言っていたのです。
“元金返済は、事業がスタートしてからでいいので、
それまでは金利だけをお支払いいただけますか?”
経営者は、それならありがたい、と思い、
その銀行から融資を受けることにしたのです。

 

本来なら長期借入金とする融資額を、短期借入金扱いで融資を受け、
金利だけを払う形にしていたのです。
いわゆる、短期のころがしです。
短期扱いなら、支店決済で通せます。
で、事業がスタートしたら、長期に切り替える、
という口約束のもとに、融資を受けていたのです。

 

“えっ、明日からですか!”
“御社の新規事業のことは存じています。
こちらとしても、本部から対応を迫られており、
これ以上はどうすることもできないのですよ。”

銀行支店とは30年以上にわたるつきあいだったが…

雨の日に傘を取り上げるとは、このことです。
しかも、
自分には責任がなく、本部が言うから仕方なく、
という言いかたをするわけです。
そもそも、全額支店決済で通している短期案件ですから、
本部がとやかく言ってきた、なんて、ウソです。
要は、回収にかかり出したのです。

 

融資を受けた会社は、新規事業が頓挫したとはいえ、
資金繰りには問題のない状況でした。
一部早期返済し、元金返済がスタートしても、
すぐに困る状況でもありませんでした。

 

“わかりました。早期返済と明日からの元金返済をお受けします。”
経営者はその場でしぶしぶ了解しました。
同時に、“いつか仕返ししてやる。”
と、心に刻んだ瞬間でした。

 

その銀行支店とは、創業以来、30年以上にわたるつきあいです。
借入金に占める割合も、ダントツで高いです。
その銀行支店にしたら、シェアが一番の取引先だったはずです。
結局、そんなことは、借りる側にとって、
なんのプラスにもならないのです。
回収に不安を感じたら、傘を取り上げにかかるのです。
銀行とは、そういうものです。
しかし、その銀行支店にしても、
すぐに回収に動かざるをえない、別の理由があったのです…。"

本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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