前回は、「事故物件」をどう考えるかを取り上げました。今回は、入居者が夜逃げした部屋に残された私物の所有権について見ていきます。

家賃数カ月未払い+連絡が取れない=夜逃げの可能性

不動産屋に勤務していたときから、大家さんから連絡があったら真っ先に飛んでいくのが私のモットーです。連絡の内容は、ほとんどの場合で家賃が入っていないとか、最近入居者をみかけないとか、違う人が住んでいるみたい等の相談です。連絡を受けると入居者に連絡を取り、家賃の催促や集金、入居者確認等に行きます。

 

入居者と連絡が取れず、電話しても「現在使われていません」などのガイダンスが流れる場合は緊急連絡先にも電話をするわけですが、それでも連絡がつかない場合は、大家さんや管理人、場合によっては警察官立ち会いで部屋に入ります。独り暮らしの人などでは突然死などのこともあるため「安否確認」は重要です。

 

ただ、家賃が数カ月未払いの状態で連絡が取れない場合は、夜逃げの可能性が高いのです。夜逃げ物件には、金目の物や高価な物がなくなっていたり、生活に必要な食料や下着類がなかったり、ゴミのまとめ方や、電化製品のコンセント、電気や水道、ガスなどのライフライン、ブレーカー、冷蔵庫の中などに特徴があり、部屋の中を見れば、現在住んでいるのか逃げてしまったのかは一目瞭然です。

「残置物」は宝の山!?・・・保証人の許可を得て売却

家賃が払われていなくても、部屋に残された私物(残置物)についての所有権は残っていますので、入居者の親や保証人、または同居していた人物から解約と所有権放棄の同意をもらいます。とはいえ、身内の方などが遠方の場合は、処分を依頼されることがほとんどです。また、預かっていた敷金から処分費用や未納賃料を精算しますが、家賃についてはほとんど保証会社が支払ってくれるほか、残置物処理についても、保証会社がやってくれる場合もあります。

 

残置物は大家さんに確認してもらい、保証人等から許可をもらってから処分にあたります。雑誌、マンガ、CD、置き物、キーホルダー、鍋、皿、ゴミ袋、ティッシュBOX、洗剤、未使用のシャンプーやリンス・・・かつて不遇の時代を過ごし、お金がなくて物をなかなか買うことができなかった私にとっては、すべてが宝の山に見えました。

 

シリーズ物の雑誌、DVD、ゲーム機やゲームソフトは買い取り業者に買い取ってもらいましたが、入居者が外国人の場合などは、本やCD、DVDなど異国情緒あふれる物ばかりで感動したものです。

 

カバンやジャンパーといった服飾雑貨はネットオークションに出したりもしましたし、古いMacのパソコンなどの高値で売れる物もありました。他人の残置物を売って稼ぐなどみみっちい、せこいと思われるかもしれませんが、使える物は捨てるより誰かに使ってもらったほうがいいのです。リサイクルと思ってください。

 

大家さんにしてみれば残置物処理など面倒なだけで、早く部屋をきれいに片付けて次の入居者を募集したいので、私と業者が残置物と格闘している姿はボランティアに見えるようです。

 

思った以上に残置物が高値で売れたりした場合には、大家さんに話して清掃業者の支払いに充てたり、未納賃料に充てたりしますが、そこまでの金額にならなかった場合は、ほとんどの大家さんはお小遣い、手間賃として渡してくれます。そのお礼として、退去後のリフォームや清掃などの業者に減額交渉をして、大家さんに恩返しをするわけです。こうして、大家さんと不動産屋は持ちつ持たれつの関係を絶妙のバランスで保っているといえます。

本連載は、2016年10月21日刊行の書籍『誰も知らない不動産屋のウラ話』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

誰も知らない不動産屋のウラ話

誰も知らない不動産屋のウラ話

川嶋 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

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