「カリスマ」に対する「組織力」というキーワード
二代目が歩む人生父・正二の検査入院は予定通り完了し、いったん退院ということになった。検査結果はすぐにはわからなかったが、待っていてもしょうがないとばかりに、正二はすぐに社長として働き出したようだ。
何日かが経過したある日、正道は、メールボックスの中のとある件名に目が留まった。
〝カリスマ社長をどう継ぐべきか?〟
それは、事業承継セミナーの案内であった。個人的な興味もあって、正道はそのセミナーに参加することにした。
セミナーの講師は四十代後半くらいの男性で、水戸隆(みとたかし)と名乗った。壇上に立つ水戸は冒頭から興味深い話をふたつ切り出した。それは「時は事業承継の時代である」、「後継者は『カリスマ』ではなく、『組織力』で経営を行わなければならない」、ということであった。
前者のポイントはこうである。現在は、戦後十年間の法人増加時代から二回目の代替わりの時期であることと同時に、一九七〇年代の起業ブームに乗って三十歳代で起業した人たちの代替わりの時期にさしかかっている。社長交代の必要性を身近に感じている社長の割合が高くなっているはずだということだった。
ふたつ目のポイントは、さらに正道の共感を誘った。そのセミナーでは親族への承継を前提として話が進められ、時代背景の違いや創業に至った思いの深さはもとより、ハングリー精神の塊(かたまり)の如く社長業を全うしてきた人間と、「社長の子ども」として育ってきた人間とでは天と地ほどの差があるというのだ。水戸は、そうした二人の描く社長像には違いがあって当然だと力説した。その違いを説明する際の、「カリスマ」に対する「組織力」というキーワードが、正道の頭に深く刻まれた。
「もっと詳しく勉強してみたいな…」
その後二時間、水戸の話す内容を、正道はほんのわずかも漏らさずノートに書き込んだ。講演の中では、一代で会社を大きくした熱い創業社長や、先代から引き継いで会社を飛躍的に成長させたパワーのある経営者たちを「カリスマ社長」と称しながら、カリスマ社長が率いる会社に見受けられる問題点についても触れていた。
講演が終わるとすぐに、次の用事のため、正道はセミナー会場を後にした。記憶が鮮明なうちにメモを確認しつつ、話を思い出しながら、一枚の表に書き出してみた。
<後継者の事業承継>
Step1:継ぐことを決める
Step2:既存ビジネスの立て直し(準備)
Step3:既存ビジネスの立て直し(実行)
Step4:新たな風土・組織基盤を造る
Step5:再成長のエンジンを創る
Step6:黒字を維持する環境を作る
(※書籍11ページ掲出の「ロードマップ」参照)
「(ふーん、こういう感じで準備していくのか。もっと詳しく勉強してみたいな……)」
それが、そのときの正道の素直な感想であった。