出荷時期が長い「九州」、短期集中の「北海道」
アスパラガスは、本来は初夏が旬の野菜です。アスパラガスの都道府県別出荷額(2012年)では、北海道が1位で17.5%、2位が佐賀県(9.7%)、3位が長野県(9.1%)、4位が長崎県(7.7%)、5位が熊本県(5.5%)です。また、年間1万1741トン(総出荷量に占める割合31.0%)を輸入に頼っています。
航空輸送技術の発達により、遠隔地でとれた生鮮野菜を冷凍することなく安く、大量に輸送できるようになりました。それに合わせて産地ごとの競争(および競争を避けるための工夫)もダイナミックに変化しています。アスパラガスは、そうした産地間の関係を見る上でわかりやすい野菜です。東京市場の入荷データをグラフ化、地図化してみました。
図表1は、東京中央卸売市場に入荷したアスパラガスの産地別入荷量(2010年)です。全国一の産地である北海道産が入荷するのは4月から7月の限られた時期で、特に6月に集中していることがわかります。一方で他の県は、出荷のピークをずらしたり、出荷時期に幅を持たせながらコンスタントに出荷することで差別化を図っていることがわかります。例えば、福島県や秋田県など東北地方の産地は北海道産が出回る6月は出荷量を抑え、北海道産が出回る前の5月や、北海道産の出荷がほぼ終わった7月から9月にかけて出荷しています。また、佐賀県や長崎県など九州の産地は、本州の各産地の出荷が始まる前の3月から4月に出荷のピークを置いています。また、九州の産地は、ほぼ1年中出荷しているのが特徴です。
[図表1]アスパラガスの産地別入荷量(2010年)
なぜ九州の産地は出荷時期が長く、北海道は短期集中なのでしょうか。背景には気候とアスパラガス農家の立地環境の違いがあります。北海道のアスパラガスの産地は中央部の上川盆地付近で、南は富良野町から北は名寄市にかけてです。平地で栽培する上、夏は暑く、冬は極寒でなおかつ雪も多い場所なので、ビニールハウスによる促成栽培や、山間部の冷涼な場所で出荷時期を遅らせるような抑制栽培には向きません。むしろ、「北海道産のアスパラ」というブランド力を生かして短期集中で一気に出荷するスタイルをとっているようです。
一方、佐賀県や長崎県のアスパラガスの産地は平野部から山間部まで広範囲にわたります。減反政策や柑橘類の輸入自由化を受けて、米やみかんに代わる商品作物として普及が進んだことと、もともと春先に集中的に出荷していたところを、「雨除けハウス」を導入したことで、降雨期の病害を防ぐことに成功し「夏採りアスパラガス」を生み出し、出荷時期に幅をもたせられるようになりました※1。
※1「佐賀県農業協同組合(アスパラガス)日本一のアスパラガスの産地を目指して」(独立行政法人農畜産業振興機構野菜情報)http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/santi/1005/santi1.html
グローバル化が進む野菜の「産地間競争」
国内産が品薄になる秋から冬にかけて、アスパラガスの輸入が最盛期を迎えます。ここでも、時期によって輸入先の国が違っています。図表2は、月別のアスパラガスの輸入量と輸入先をグラフにしたものです。
[図表2]アスパラガスの国別輸入量(2010年)
国産のアスパラガスが品薄になる11月から3月にかけてが輸入のピークです。10月から12月にかけてはオーストラリアやニュージーランドなど南半球の国々、12月から4月まではペルーやメキシコなど、南米諸国からの輸入が多くなります。このデータを地図に表したのが図表3、4です。オセアニア産と南米産の入荷時期がはっきりと分かれています。その一方で、量はそれほど多くありませんが、タイやフィリピンなど、東南アジアの国々が、ほぼ1年中コンスタントに輸出しています。
[図表3]アスパラガスの国別輸入量 3月(2010年)
[図表4]アスパラガスの国別輸入量 11月(2010年)
日本向けの輸出統計ではあまり目立ちませんが、ペルーは、世界のアスパラガス輸出高の40%を占める大国です。かつては大半が缶詰にされていましたが、中国が台頭してくると、グリーンアスパラガスの生鮮品出荷に転じました。
現在世界で最もアスパラガスを生産し、輸出している国は中国です。世界の生産量の88%を占めます(FAO : 2013年)が、東京中央卸売市場の入荷統計にほとんど出てこないのは、その多くが缶詰や冷凍品として輸出されているためです。
野菜の産地間競争はグローバル化の時代に突入していますが、その土地の気候風土や人件費の安さなどの強みを生かした新しい産地が次から次に登場しています。