かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して「お金の増やし方」を学ぶ本連載。今回は、その第20回です。※本連載は、銀行の元支店長で現在は実業家として活躍する菅井敏之氏の著書、『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』(アスコム)の中から一部を抜粋し、お金の増やし方について、かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して見ていきましょう。

<登場人物紹介>

・和久井健太(わくい・けんた)
京都にある洛中信用金庫に就職。入社三年目を迎え、北大路支店の営業部に配属されるも、引っ込み思案がわざわいして、苦戦。最近自分がこの仕事に向いているのか悩んでいる。

・桜四十郎(さくら・しじゅうろう)
偶然入った喫茶店で出会った職業、住所、年齢ともに不定の謎の中年男性。なぜか金融関連の事情に詳しく、和久井にいろいろとアドバイスをするように。

 

市内に戻ってきて、川沿いのサイクリングロードを軽く流しているときだった。

 

ブルーシートで囲まれた段ボールハウスが並ぶ橋梁下に、府の職員がやってきて、ホームレスたちにハウスを撤去するよう求めていた。

 

そのホームレスの集団を背後に従え、腕組みをして交渉の前線に立っている男がいる。

 

サドルの上で和久井はあっと声を上げた。

 

「なるほど、自立支援センターね。そこに行けばとりあえず今日の寝座は確保できるんだな。ただ、その後の職安との連携なんかはどうなってんだ」

 

この代表に対して職員は、ホームレス自立支援特別措置法や自立支援センターなどの単語を並べて、けんめいに撤去のほうへと誘導している。

 

「確かに、俺はともかく、若いのは社会復帰したほうがいいよな」

 

桜さんの背後には、年の頃なら学生と見受けられる若者も交じっていた。

 

「まあ、俺たちの姿は観光客には見せて都合のいいもんじゃないから、とりあえずバラそう。もっとも、嫌だと言っても強制的に排除されるだけだからな」

 

この人はホームレスだったのか。

 

「桜さん」

 

河川敷の住人が段ボールハウスを解体しはじめた頃合いを見計らって、和久井は声をかけた。

 

桜さんはしげしげと和久井を見て、

 

「おお、一緒にまずいパスタを食った兄ちゃんだ」

 

「その節はどうも」

 

和久井は礼を言った。

「どうなった? あの喫茶店のおばさんの件は」

「なんだその格好は? 信金辞めて競輪選手になったのか」

 

「これは、ロードバイクです」

 

「だからなんだ」

 

「競輪の自転車じゃないんです。舗装された道路を速く走るためのバイクです」

 

「じゃあ競輪はトラックバイクなんて言うのかい?」

 

妙に理解が早いのだが、こっちの方面に話題を向けるわけにはいかなかった。

 

「それより桜さん、こんなところで何やってるんですか」

 

「いや、少しの間、ここにやっかいになってたんだが、ご覧の通り撤去を求められてな」

 

話が通じないので和久井は戸惑った。どうして融資に関してあんな的確なアドバイスができる男が、ホームレスをやっているんだ。

 

「どうなった? あの喫茶店のおばさんの件は」

 

桜さんが訊いた。

 

いつの間にか、お姉さんがおばさんになっている。

 

「俺、その件で礼を言いたかったんですよ。実はうまくいきそうなんです。ありがとうございました」

 

「そうか。じゃあ若いの、飯でも奢れや」

 

桜さんは単刀直入に言った。

 

「いいですよ」

 

ランチぐらいは喜んでご馳走しよう。こちらも北山を走ってきたので空腹だからちょうどいい。和久井はロードバイクを川沿いの道路に担ぎ上げて、上から河川敷を眺めながら桜さんを待った。

 

桜さんは、仲間に挨拶をしている。やがて土手に登ってきた。和久井はロードバイクを押しながら桜さんと肩を並べ、川下のほうへぷらぷらと歩きだした。

 

「何が食べたいですか」

 

「そうだなあ、なんか下品なものが食べたいな、ラーメンとか」

 

和久井はそのぞんざいな物言いの中に、こちらの財布をあまり痛め付けないような気遣いを感じた。

 

「ラーメンですか」

 

「おう、半チャン付けてくれれば嬉しいな」

 

和久井は思い切って言った。

 

「桜さん、俺んちで食いませんか」

 

「お前んち?」

 

「ええ、肉買って帰って、焼き肉にしましょうよ」

 

「そりゃあ名案だ。でも部屋に匂いがついちゃわないかな」

 

「いいんです、そんなの気にするようなところじゃないですから。じゃあ、この先にスーパーがあるので寄ってきましょう」

 

「よっしゃ。ついでにビールも買ってくれ」

 

桜さんはちゃっかりそう付け足した。

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

菅井 敏之

アスコム

長年の取引先を次々と失う洛中信用金庫。メガバンクの巧妙な罠にはまり、貸し剥がしにあう老舗商店――。人々の夢と希望と「お金」を奪うメガバンクの策謀がうずまく京都の町を、かけだし信金マン・和久井健太が駆け巡る! 読…

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