かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して「お金の増やし方」を学ぶ本連載。今回は、その第16回です。※本連載は、銀行の元支店長で現在は実業家として活躍する菅井敏之氏の著書、『読むだけでお金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿』(アスコム)の中から一部を抜粋し、お金の増やし方について、かけだし信金マン・和久井健太の活躍を通して見ていきましょう。

<登場人物紹介>

・和久井健太(わくい・けんた)
京都にある洛中信用金庫に就職。入社三年目を迎え、北大路支店の営業部に配属されるも、引っ込み思案がわざわいして、苦戦。最近自分がこの仕事に向いているのか悩んでいる。

 

「乗り気だってことだよ」

 

店に戻ると、そば湯を猪口に注ぎながらオヤジが事もなげに言った。けれど、安定収入が、審査が、と和久井が言いかけたとき、オヤジの手が目の前に伸びてきた。

 

「俺にも名刺一枚くれないか」

 

和久井はあわてて名刺を出した。

 

「和久井健太君ね、何年目だ?」

 

「三年目です」

 

「そうか、俺って金貸し業に向いてるんだろうかとか、いろいろ悩む頃だよな」

 

ドキリとした。

 

「けど、自分にはいったい何が向いているのかを考えると、ハッキリしたものは何もない」

 

そう言って、オヤジはニヤリと笑った。こっちの心中を見透かされているようで気味が悪い。

 

「二年店舗にいて、今年から外回りか」

 

和久井はうなずいた。

 

「まあ、がんばれ。金貸し業で、外回りやらないで出世する奴はいないさ。特に信金なんてのは外回りが命だろ」

「審査は、まあ大丈夫だよ」

あの、と和久井が話を遮った。

 

「審査は、まあ大丈夫だよ」

 

また先を見越したようにオヤジは言った。

 

和久井は正直に不安を打ち明けた。

 

「融資の件は、審査を通らないとなんとも言えないじゃないですか」

 

「そりゃそうだ」

 

「そりゃそうだって、そんな無責任な。安定収入の件で疑問視される可能性だってあるのに」

 

オヤジは和久井の蒸籠を、ついと前に指で押し出した。

 

「まあ食えよ。ここはなかなかうまいぞ」

 

そう言って、また笑った。

 

「あのマダム、娘がいるって言ってただろ?」

 

和久井がそばを一口啜ったとき、オヤジが言った。

 

「ええ」

 

「看護師だと年収で三百万ほどあるはずだ」

 

「はい」

 

「一緒に住むんなら、審査部には、ここは世帯で見てくれと言え」

 

なるほど、と和久井の箸は思わず止まった。

 

「まあ、食いながら聞いてくれりゃいいよ」

 

和久井の箸がまた動く。うまい。

 

「つまり、世帯で見れば純資産はかなりある。それからフローの金もオーケーだ。みなみ病院が明日つぶれるなんてことはないだろ。つまり定期収入も安定性もばっちりだ」

 

和久井は感心した。

 

「大丈夫、通るよ」

 

男はニヤッと笑った。

 

「いいか、貸借対照表だけ見ても出てこない情報ってのがあるんだよ、それをちゃんと拾っておくんだ」

 

なるほどと和久井はうなずいた。しかし、不安がすべて払拭されたわけではなかった。

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

読むだけで お金の増やし方が身につく 京都かけだし信金マンの事件簿

菅井 敏之

アスコム

長年の取引先を次々と失う洛中信用金庫。メガバンクの巧妙な罠にはまり、貸し剥がしにあう老舗商店――。人々の夢と希望と「お金」を奪うメガバンクの策謀がうずまく京都の町を、かけだし信金マン・和久井健太が駆け巡る! 読…

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