本連載は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニアアナリスト・荻野零児氏の著書、『よくわかるエネルギー株』(化学工業日報社)より一部を抜粋し、エネルギー会社の株価の基本的な見方をご紹介します。

代表的な原油価格の指標は三つ

本連載は、エネルギー会社の株価の見方を紹介します。はじめに、エネルギー会社全体に共通する注目点を紹介し、その後に、電力や都市ガス、石油などのエネルギー別の注目点を紹介します。

 

1.エネルギー会社に共通する株価の見方

 

エネルギー会社に共通する主な注目点は、(1)エネルギー価格、(2)販売数量、(3)エネルギー政策の3点です。

 

(1)エネルギー価格の変動

 

エネルギー会社は、原油、石炭、LNG(液化天然ガス)、LPガス等のエネルギーを輸入しています。エネルギー価格の変動は、エネルギー会社の業績に影響するため、株式市場ではエネルギー価格の日々の推移が注目されています。特に、エネルギーの代表である原油価格への注目度合は高いです。

 

原油にはいろいろな種類があります。代表的な原油価格は、ブレント原油価格(ロンドン市場)、WTI原油価格(ニューヨーク市場)、ドバイ原油価格(中東原油の指標)の三つです。図表1は、ブレント原油価格の推移を示しています。ブレント原油価格は、2015年末35.8㌦/バレルから2016年末55.4㌦/バレルに約55%上昇しました。

 

一般的に、原油価格の上昇は、原油や天然ガスの生産事業(油田やガス田)にとって増益要因です。油田の原油生産量を一定とすると、原油価格が50%上昇すれば、原油の売上高は50%増収します。仮に、油田の操業コストを一定とすると、売上高の増収は増益要因となります。

 

石油製品事業では、原油を輸入して、製油所でガソリンなどを生産しています。原油価格の上昇は、原料コストの増加要因です。もし、石油製品の販売価格に、原油コスト上昇分を転嫁できない場合には、石油製品のスプレッド(利幅)が悪化します。

 

[図表1]ブレント原油価格の推移

出所:ブルームバーグに基づきMUMSS作成。
注:月末値
出所:ブルームバーグに基づきMUMSS作成。
注:月末値

中長期的には増加が見込みにくい国内のエネルギー需要

(2)エネルギー販売量の変動

 

<国内のエネルギー需要>

エネルギー価格の変動の次に、エネルギー販売量の変動の特徴が重要です。まず、中長期的には、国内のエネルギー需要量の増加は見込みにくい状況です。日本の人口や世帯数の増加率の鈍化や自動車の燃費改善やエネルギー設備の省エネが進んでいることが背景にあります。

 

<エネルギー需要量の季節性>

四半期ごとにエネルギー需要量を見る場合には、夏や冬の季節性に注意してください。例えば、暖房向けエネルギーの需要ピークは冬です。夏は冷房需要のピークがあります。

 

エネルギー需要の季節性は、会社の四半期決算に影響します。

 

例えば、石油会社の四半期ごとの石油製品の販売量は、灯油の需要がピークになる1―3月期の販売量がもっとも多くなる傾向があります(図表2参照)。LPガス会社も家庭の暖房向けLPガスの販売量が季節性によって変動しています。決算期が3月のLPガス会社の決算は、上期(4―9月期)よりも下期(10―3月期)の方が売上も利益も大きくなる傾向があります。

 

[図表2]灯油の販売量の季節性

出所:経済産業省資料に基づきMUMSS作成。
出所:経済産業省資料に基づきMUMSS作成。

 

次回は、エネルギー政策について見ていきます。

よくわかるエネルギー株 業界の特長から主要銘柄の見方まで

よくわかるエネルギー株 業界の特長から主要銘柄の見方まで

荻野 零児

化学工業日報社

本書は、エネルギー(石油・電気・都市ガス・LPガスなど)業界のアナリストとして長年活躍されている三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荻野零児氏がエネルギー業界に興味のある初心者から一般投資家へ向けて、エネルギー会社…

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