小規模事業者は、銀行口座さえまともに開設できない!?
金融庁の「マネー・ロンダリング」対策行政を腹立たしく思う起業家は少なくありません。筆者の支援する起業家も同様で、その多くは「コネなし・カネなし」なのです。
平成18(2006)年5月の会社法施行前は、「資本金払込証明書」が銀行の恣意的な判断により、発行されないことが間々ありました。つまり、銀行が零細起業家を苦しめていました。会社法施行後は、この銀行証明が不要になり、喜んでいました。
しかし、最近では新たに「銀行口座開設の壁」が問題になっています。起業直後の小規模企業は、銀行口座さえ、私的な「口座開設審査」の壁に苦労しています。
何が銀行をこのような「行政」に走らせているのでしょうか?
大手と小規模企業を同一視した「マネー・ロンダリングの水際作戦」がどれほど起業意欲を削いでいるか、銀行関係者には「知ったことではない」からです。こんなずさんな産業育成の行政では、起業家が育つはずもありません。
銀行にとって、小規模企業の経営者に対して「起業を元気付ける」義務や配慮は、業務のらち外です。政府が「起業家は産業政策に大切」といっても、個々の銀行員には、何の指示もありません。
彼らが指示されているのは、「暴力団等による不正資金の洗浄(マネー・ロンダリング)防止」だけ。ですから、大々的に店内にキャンペーンポスターを貼り出しています。
一般的に、小規模企業の経営者には「マネー・ロンダリング」のような犯罪とは関係がありません。しかし、銀行にしてみれば、誰が「容疑者」なのか分からないため、暴力団も小規模な起業家も、一律にマネー・ロンダリング疑惑の網をかぶせます。
そのため、銀行の多くが、「銀行口座開設」にも、多くの起業家からブーイングが出ている「手続き」を強行しています。挙句の果ては、「身元が明らかでないので、口座は開けない」と言い渡される零細起業家が少なくありません。犯罪者ではないのに、「犯罪者か否か分からないから、口座は開けない」という論法です。
少々やりすぎではないでしょうか。
個人通帳を、そのまま会社に転用する手も
このような起業家に、筆者はこう助言します。
「もっている銀行の個人通帳を、そのまま会社に使いなさい!」と。
ただ、取引先が「会社の銀行口座」を要求する場合は、処置なしです。取引先に銀行口座開設が認められない旨を伝えて、了解をとるよう努めるしかありません。
こういういわば「些細な銀行行政」が、起業家の高揚心を大きく傷付けています。心の冷えた経営環境に、元気な起業家が育つはずもありません。しかし、それが実態だということを認識し、起業家は心して会社を経営していきましょう。
このような融資現場での弊害は、銀行融資の閉鎖性に由来しています。この悪弊は、「起業が当たり前」の働き方としての地歩を固めていく過程でしか、改善されないと思います。つまり、金融業界内部からでなく、freee社のような国際感覚をもった金融外部の勢力が、銀行の悪弊を打ち破っていくのだろうと推察します。