株式市場の大きさでは先進国の半分以上を占める米国
「1万円から世界に投資してみましょう」――投資信託を通じた資産形成をわかりやすく説明したフレーズです。投資信託は少額から投資ができ、それらのお金をまとめて外国の株式や債券に投資する便利なスキームを持っています。では、そのときの世界はどのような景色なのでしょう?
みなさんも小さいときから何度も世界地図を目にしているので、すぐに思い浮かべることができますよね。日本が小さな島国として中心に描かれ、右には南北アメリカ大陸、左には大きなユーラシア大陸があり、その北方にはロシア、南方にはオーストラリアが海に浮かんでいます。
私たちが目にする世界地図は、土地の大きさを基準に描かれていますが、これを人口によって描いてみると、まったく違った地図になります。人口が80億人の世界では、13億人ともいわれる中国とインドが3割近くを占め、次いで3億人を有する米国が続きます。一方で、北方のロシアやカナダ、人口が2000万人しかいないオーストラリアはいまの地図よりもかなり小さくなるでしょう。描く基準によって、みなさんが思い描く世界地図とは異なる景色になります。
では、投資信託を通じて世界の株式に投資するときの世界地図はどんな様子でしょう? 先進国に投資するインデックスファンドの月次報告書を参考にすると図表1のようになります。
これをみると米国が圧倒的に大きい割合を占めています。この大きさは、株式市場の大きさ(これを時価総額と言います)をベースに計算されています。経済力で測ると世界ナンバーワンの米国でも世界のGDPに占める割合は4分の1程度です。
一方で、株式市場の大きさでは先進国の半分以上を占めています。つまり、一般的な外国株式のファンドに投資をすることは、私たちが見慣れている世界地図のイメージではなく、半分以上は米国に投資をしていることになります。
[図表1]外国株式の国別構成
日本と異なり、長期の上昇を続ける米国の株式市場
日本は20年間近くのデフレ時期を経験し、その間、株式市場は低迷し続けました。そのため、日本人は多かれ少なかれ株式投資に関して負の体験や良くない印象を持っています。一方で、米国に目を向けると異なった世界が広がっており、日本と比べると長期間にわたって上昇を続けていることがわかります(図表2参照)。
[図表2]日米の株価推移
米国も過去には経済の低迷期がありましたが、それを乗り越えて成長してきました。世界の株式市場の上位には米国企業が数多く名を連ねています。米国以外の企業を探すほうが大変かもしれません。メジャーと呼ばれるエクソンなどの石油・エネルギー関連企業、ボーイングなどの航空・軍需関連企業やアップルはもとより、フェイスブック、アマゾン、グーグルなど、世界をリードする企業が目白押しです。
そういった企業が続々と生まれるのが米国の強みでもあります。シリコンバレーからは、次世代のアマゾンやグーグルが出てくることでしょう。これらを背景に、世界の株式市場において米国が占める割合は過去20年間で最も高い水準にあります。
債券において株式の市場規模に相当するのは、各国の債券発行残高です。債券も外国(先進国)のなかでは米国の割合が半分以上を占めています(全世界でみると、債券では日本も高い構成割合を占めます)。私たちは何気なく外国に投資をしたつもりでも、米国に半分を投資したことになるのです。
それでも米国は世界経済の中心であり、投資対象としての信用度は最も高いクラスに位置します。仮に米国の割合が高いことを知らなかったとしても、大きな影響はないかもしれません。逆に米国に不安を感じている人、米国に過度な投資をしたくない人は、外国全体に満遍なく投資するファンドではなく、欧州やオーストラリアなど特定の国や地域に投資する投資信託を選ぶことです。
アジアへの投資をうたう投資信託は多いが・・・
投資信託には、アジアへの投資をうたうものもたくさんあります。中国、韓国だけではなく、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシアなどアセアンの国々も含まれ、より広い範囲ではインドも対象になります。アジアの国々は日本との地理的な距離も近く、将来の発展が期待される地域でもあり、投資対象として根強い人気があります。では、投資信託において「アジアに投資する」と示される場合には、どのような地図になるのでしょう?
(日本を除く)アジアのキーワードで絞った場合には中国の割合がかなり高くなります。株式の代表的な指数では中国の割合は3割を超え、グレートチャイナと呼ばれる香港、台湾までをあわせるとアジア全体の5割以上にもなります(図表3参照)。
[図表3]アジア株式の国別構成
債券の場合にはもう少し複雑で、中国が含まれないアジア国債指数をベースに運用されるファンドもあれば、中国関連が2割以上を占めるアジア社債指数もあります。アセアンは中国に引けをとらない6億人も抱える経済規模を有しているのですが、一部の国は発展途上でもあり、金融市場の規模でみると私たちのイメージほど大きくないのです。
中国の資本市場は大きく成長していますが、未だに多くの業種では国営企業が影響力を持ち、土地も個人所有ではなく国が管理しています。経済規模は世界第2位でありながらも、国家の関与が経済や規制に大きく影響していることから、WTO加盟から15年が経過したにもかかわらず、市場経済国には認定されませんでした。
アジアに満遍なく投資をしたつもりでも、投資の成果が規制や制約の多い国に左右されることを知らなければ、予想外の結果に繋がる場合もあります。先進国のケースとは異なり、新興国の場合には特に、特定国の影響を受けないようにすることが賢明です。実際にどの国にどの割合で投資しているのかを確認することは大切な作業なのです。これらは、運用報告書か月次レポートで確認できますので、しっかりとチェックするように心がけましょう。