今回は、投資信託の基準価額について、その見方・捉え方などを説明します。※本連載では、毎年1000を超えるファンドを分析する投信評価会社に所属する「投信のプロ」が、投資信託の基礎知識を世界一わかりやすく解説します。

基準価額で「高い・安い」を判断するのは危険

投資信託は「基準価額」で取引され、表示は円単位です。そのため、基準価額を「価格」と捉え、その価格の水準自体に意味があるような印象を受けてしまいます。株式も価格で取引されますので投資信託も似た印象を受けますが、基準価額と株価ではその意味合いは異なります。このことは昔から何度も言われていながらも、未だに同じようなものと取り違える人があとをたちません。

 

投資信託の基準価額を株価と同じように取り扱ってもよいのは、ファンドの価値が上昇したのか下落したのか、どれくらい「変化」したのかをみるときです。

 

一方で誤解されやすいのは、基準価額の「水準自体」をみて、高い、安いと判断することです。こういう人の言い分では、投資信託の基準価額はそもそも1万円で始まったのだから、3000円の基準価額のファンドは「安い、割安」と錯覚してしまうことです。

 

しかし、基準価額の水準に深い意味はありません。むしろ、3000円の基準価額のファンドは、「組み入れた株式や債券の価格下落やファンド運用に問題があり、リターンがマイナスになっている」、もしくは「過剰な分配金の支払いによってファンドの価値が毀損している」場合に生じるものです。

フェアバリューではない基準価額

では、「高い」「安い」の物差しとしてみられている投資信託の1万円という基準価額は、そもそもなにを意味しているのでしょう? それは、フェアバリュー(妥当な価値)ではありません。私たちが買い物をする際に考える定価ではないのです。単に、そのファンドが設定された時点の価値に過ぎません。

 

ですから、同じ投資対象を組み入れていたとしても、市況が良いタイミングに設定したファンドと、その後に価格が3割も下落したタイミングで設定したファンドは、設定時は同じ1万円の基準価額です。3割下落した時点で設定されたファンドは7000円ではないのです。

 

基準価額を1万円と比較することに意味があると感じている人は、基準価額が低いファンドは価格を戻す余地が大きい、あわよくば1万円まで戻るとしたら儲ける機会があると考えます。しかし、設定時まで戻る根拠もないのに期待するには無理があります。

 

特に、毎月決算型ファンドで、市場から得られる金利利息や配当よりも明らかにたくさんの分配金を支払っているファンドは、ほとんどといってよいほどファンドを取り崩して分配金を支払っています。そのため、分配金をファンドから支払うたびに、それだけ基準価額は下がっていきます。過度な分配金を支払ってきたファンドほど基準価額は1万円とはほど遠い水準にあるのですが、ファンドから払い出したのですから、その分がもとに戻ることは期待できませんよね。

分配金の支払いが基準価額に与える具体的な影響とは?

分配金をどれくらい過度に支払っているのか、パッと確認したいのであれば、投資信託の各ファンドの月次報告書(マンスリーレポート)を見てみましょう。かならず最初に、基準価額の推移のグラフが掲載されています。そこには、実際の基準価額とともに、分配金を再投資して運用したと仮定した場合の分配金再投資基準価額が併せて掲載されています。この両者の開きが大きいファンドほど、得られた金利利息や配当よりもたくさんの分配金をファンドから取り崩して払い出している証拠です。

 

このように、ファンドに組み入れた株式や債券の価格が下がるか、過度な分配金を支払うことによってファンドの基準価額は下がります。しかし、それは必ずしも割安であることを意味するものではないのです。また、複数のファンドを基準価額の水準で比較することにも意味はありません。

 

[図表]基準価額と分配金再投資基準価額

 

逆に、基準価額が1万円を大きく越えて高くなると、ファンドの売れ行きが鈍るなどの影響が出るようです。本来であれば、価値が増えていることの表れなのですが、逆に敬遠されてしまうようです。そのため、運用会社のなかには、わざわざ同じ運用をするファンドを新設することにより、基準価額を引き下げる方策を考えなければいけないという悩みがあるとも聞きます。

 

私たちが普段、買い物などで考える物やサービスの価格とはまったく違います。基準価額の水準を意識して、誤ったファンド選びをしないように気を付けたいものです。

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