今回は、アメリカと中国の間で懸念される「貿易戦争発展リスク」について見ていきましょう。※本連載は、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、トランプ大統領の政策と、それによる世界マーケットへの影響を読み解きます(執筆:株式会社フィスコ所属アナリスト・田代昌之氏)。

中国への外交姿勢は軟化したトランプ大統領だが・・・

ここにきて中国景気は回復傾向に転じている。一時は21カ月連続でマイナス成長となっていた輸入額だが、2017年に入ってからは一転して2ケタの成長をみせ、2月は前年同月比38.1%増と、2012年2月以来の高水準となっている。3月、4月も2ケタ増ベースが継続中だ。

 

また、PMI(購買担当者景気指数)も2016年8月以降は50超の推移が続いている。さらに、減少傾向が続いていた外貨準備高も2月は予想に反して2016年6月以来8カ月ぶりの増加となっている(中国の統計データは貿易赤字と外貨準備額に矛盾があるため、あくまでひとつの目安ではあるが)。

 

加えて、「1つの中国」に対して疑問を投げかけたり、45%の関税措置を実施するなどと発言してきたトランプ米大統領が誕生したことで緊張感が高まってきていた米中関係も、足元では融和の兆しが見えてきている。

 

2月10日のトランプ大統領と習近平中国国家主席の電話会談では、トランプ大統領が「1つの中国」の原則を尊重すると明言、4月6〜7日には米中首脳会談が実施された。その後12日には、トランプ大統領が中国を為替操作国に認定しないことを明らかにし、対中国の外交姿勢に大きな変化がみられてきている。

 

米中首脳会談において、北朝鮮問題への圧力強化と引き換えに米中の通商問題を棚上げするといった約束が交わされた可能性は高いと考えられる。

関税措置が実施されれば、中国経済への影響は甚大

ただ、中国が期待ほどの影響力を行使できないようであれば、再度米中の貿易問題が遡上にあがってくる公算は大きいといえよう。

 

トランプ大統領は選挙戦から対中強硬姿勢を取っており、大統領選挙での大勝は米国における対中感情の高まりを映すものとも意識している可能性がある。また、トランプ大統領の通商担当チームが対中強硬派で占められている点も注視すべきだろう。

 

米国通商代表部代表には、中国鉄鋼製品に対する反ダンピング訴訟を担当した経験もあるライトハイザー氏が起用されているほか、貿易問題を担当する新組織「国家通商会議」の委員長には、中国政策を批判する著書で有名なピーター・ナヴァロ教授が就いている。

 

仮に、貿易戦争が勃発した場合、対米貿易黒字3657億ドル(2015年)を計上している中国にとっては大きな影響を受けることになる。米国は中国の最大の輸出先となっており、中国の輸出全体の18%を占めている。金額ベースでは4101億ドル、GDPの3.7%に相当するものとなる。

 

米国輸出の主要製品はすでに、米国以外の地域でも中国からの輸入シェアが高水準に達しているため、中国にとっては米国に代わる輸出の代替先はほとんどない状況だ。

 

また、中国ハイテク企業にとってみると、米国部品の調達が困難になると、ハイテク製品の生産にも支障をきたすことになる。ほか、米国金融市場からも締め出しを食らうとなれば、NASDAQ上場などによる資金調達でも影響を受けることになろう。中国国内における米国企業での労働者約100万人の雇用問題も浮上する。

FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう

FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう

株式会社フィスコ

実業之日本社

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