短期的なユーロ崩壊懸念は大きく後退
2017年は年初から欧州で相次ぐ議会選挙・大統領選挙が最大のリスク要因と捉えられてきた。2016年には英国の国民投票でEU離脱支持派が予想外の勝利を収め、さらに保護主義政策を強めるトランプ大統領が誕生し、2017年はさらに、ポピュリズムの台頭が勢いを増すとの警戒感が強まっていたためだ。
ただ、最初の焦点となったオランダの議会選挙では、第1党になると予想された時期もあった、反イスラム主義者で極右政治家のヘールト・ウィルダース率いる自由党が思ったほど票を伸ばせなかった。自由党の勝利は即、フランス大統領選挙における反EU派の増勢につながるとみられていただけに、これにより、過度なEU崩壊懸念は後退する状況にもつながった。
一方、オランダの議会選で勝利したルッテ首相率いる自由民主国民党だが、直前に起きたトルコの外相入国拒否を巡るトルコとの外交論争が追い風となったともされている。自国の利益優先を強調し、ポピュリズムのお株を奪う格好になったのだ。また、オランダは比例代表制で二者択一の選挙ではないため、過激な政党の躍進は難しい状況であったともいえる。
仏大統領となったマクロン氏 政治能力に不安も
こうした点から見て、本当の意味でのポピュリズム台頭の有無はフランス大統領選になると考えられた。
当初、フランス大統領選は、家族への不正給与疑惑が拡大したフィヨン氏が支持率を下げ、極右・国民戦線のルペン候補と独立系のマクロン氏の争いとなっていた。
両候補の決選投票ではマクロン氏が圧勝するとの予測が大勢を占めてはいたが、後半には極左のメランション氏が猛追、ルペン氏とメランション氏の決選投票進出といった可能性も一時高まった。ともにユーロ懐疑派の候補のため、「EU崩壊」の可能性が強く警戒される場面も見られた。
しかし結果は、第1回投票でマクロン氏が勝ち残り、5月7日に行われた決選投票ではマクロン氏がルペン氏を抑えて圧勝することとなった。
マクロン氏は「強いEUを作りフランスの利益を守る」とし、EUとの統合を推進すると強調している。今回の決選投票は、EUへの賛否が焦点であったため、フランス国民はEU残留を選んだことになる。第1回投票、決選投票結果を受けて、過度なEU崩壊懸念が大きく後退、ユーロは対円で117円/ユーロから3週間で124円/ユーロまで大きく上昇している。
新大統領に選出されたマクロン氏だが、これまで議員経験がなく、外交・安保の手腕も未知数などといった弱みもある。加えて、中道寄り有権者の受け皿になった面も強く、議会運営がスムーズに進められるのかなどには不透明が残る。
まずは、6月に迫った国民議会(下院)選挙でマクロン支持派が過半数の議席を獲得できるかどうかが焦点。議席獲得に失敗すれば、国民に約束した改革の実現は難しくなり、あらためてポピュリズムの台頭を促すことにもなろう。