今回は、EU圏内で2017年に行われる「国政選挙」の展望を見ていきます。※本連載は、金融情報全般を扱う大手情報配信会社、株式会社フィスコ監修の『FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう』(実業之日本社)の中から一部を抜粋し、トランプ大統領の政策と、それによる世界マーケットへの影響を読み解きます(執筆:株式会社フィスコ所属アナリスト・田代昌之氏)。

9月に実施される「ドイツ総選挙」が最注目

欧州で相次ぐ選挙の中でも、9月に実施されるドイツの総選挙が最も注目される。メルケル首相がEUの守護神とも位置づけられていることで、メルケル氏のキリスト教民主同盟(CDU)と社会同盟(CSU)が政権を維持できるかが焦点になる。

 

現在の状況では、反体制派政党であるドイツのための選択肢(AfD)は支持率が伸び悩んでいるが、フランス国民議会選挙次第では再度勢いを取り戻していく可能性もあろう。

 

 

一方、足元で支持率を伸ばしているとされるのはシュルツ氏が率いる社会民主党(SPD)である。メルケル首相の長期政権に飽きた労働者階層の出身で低学歴、中央政界の経験なし、という半生がそのまま強みとなり、支持を獲得してきている。仮に、メルケル首相が敗北した際は、シュルツ氏の中央政界経験なしというリスクが一時的にマーケットを覆うことになりそうだ。

 

ただ、フランス大統領選でマクロン氏が勝利したことに加え、ドイツ総選挙でシュルツ氏がリーダーとなった場合、現状よりもむしろユーロの存続確率は上昇することになるとみられる。両候補はともに欧州連邦主義に賛同しており、ユーロ圏の財政・政治統合を強く支持しているためである。また、ともにドイツとフランスの同盟関係の重要性を強く意識している。

 

ユーロ圏での二大大国のリーダーが政治と経済の原則を共有していることは、EUの結束の強まりにつながろう。

 

結果的に、フランスでのルペン大統領が誕生しなかったことで、短期的なEU崩壊の可能性は極めて乏しくなったということができる。ドイツの総選挙に対する警戒感も高まりにくいとみられ、今後は過度な悲観論後退によるユーロ高選好の地合いとなっていこう。

トランプ大統領の圧力でEUの弱体化・崩壊の可能性も

ただ、リスク要因として、ドイツ総選挙までに欧州離脱交渉でイギリスが圧倒的優位な条件を勝ち取ること、マクロン新大統領の議会運営が機能しなくなることなどがある。

 

3月17日にはトランプ大統領とメルケル首相の首脳会談が行われたが、非常にギクシャクしたものであったと伝えられている。

 

トランプ大統領としては、ドイツの対GDP比での国防費の低さ(1.5%弱)、対ドイツでの貿易赤字を問題視しているとみられる。とりわけ、米国の貿易赤字をEU統合にあると考えており、基本的にEU弱体化・崩壊を望んでいるものと考えられる。

 

ちなみに、マクロン氏もEU改革に着手する意向を示すなど、決して現在のEUの体制に満足しているわけではない。短期的に危機は去ったといえ、EUに変化がなければ、再度、EU崩壊に対する警戒感が高まる場面も到来しよう。

FISCO 株・企業報 2017年夏号 今、この株を買おう

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株式会社フィスコ

実業之日本社

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