「どうして練習通りできないんだ!」と怒鳴っても…
前回の続きです。
では、どうしたら子どもたちの本当の願いを知ることができるのでしょう?
知るための方法として紹介するのは、もちろん、しつもんをして聞くことですが、その方法はもう少し後で。まずは、しつもんをするための下準備を紹介しましょう。
試合になると練習とは違うプレッシャーを感じ、ふだん通りプレーできない選手もいます。そんな選手に対して「なにやってるんだ!」「どうして練習通りできないんだ!」という声がけは効果的でしょうか?
こう言われても、選手のプレーが良くなることはほとんどなく、よりプレッシャーを感じて萎縮してしまうでしょう。
こういう声をかける保護者の方やコーチは、子どもたちを見ているようで見ていないことが多いのではないかと思います。「試合になると練習とは違うプレッシャーを感じ、ふだん通りプレーできない」と言いましたが、それがわかっていれば、少なくとも「どうして練習通りできないんだ」という言葉は出てこないはずです。
「いやそんなことない。プレーを見ていたからミスしたのがわかるんだ!」
そんな声が聞こえてきそうですが、子どもたちのことを知るために、プレーを見るのではなく、子どもたち自身を ”観て”欲しいと思うのです。
”観る”は、観察するということです。”見る”と観察するは似ているようで違います。観察のプロ、名探偵ホームズがあるとき助手のワトソンに聞きました。
「君は自分の家の階段を観たことはあるか?」
当たり前のことを問われたワトソンは少しムッとしながらこう答えます。
「もちろん何百回と見たことがある」
ホームズはさらに聞きました。「それでは、その階段は何段ある?」
「・・・」
ワトソンは答えることができませんでした。彼は当然、自宅の階段を毎日上り下りしていたわけですから、”見て”はいました。でも、一階から二階へ、または二階から一階へ移動するというあまりに当たり前の行動を繰り返していたため、足下の階段を観察はしていませんでした。ホームズはワトソンにこう言ったそうです。
「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大違いなんだ」
観察することで、子どもたちの「内面」に迫る
子どもたちに目を向けたときも同じことが言えます。
ある選手がエラーをした。これは、誰でも見ることのできる事実です。しかし、ここに「観察する」という視点が加わると、エラーをした選手の様子が見えてきます。
いつもより緊張しているな。集中できていないように見える。
こんな見方ができると、観察していた方の思考がどんどん発展していくのです。
「そうか、彼は試合になると力が発揮できないんだ」
「緊張する要因はなんだろう?」
「練習から、試合の緊張感を得ることはできないだろうか」
子どもたちを知ることは観察すること。観察をすることで、見えるものが増え、プレーの結果だけでなく、子どもたちの内面に迫ることができるようになるのです。
そして、ちょっと一呼吸置いて、子どもたちを観察することができれば、一見するとネガティブな結果にうつる「シュートを外した」ということも、成長をするきっかけのひとつととらえられるのです。