本連載は、新日本パートナーズ法律事務所の代表弁護士・初澤寛成氏と、TH総合法律事務所の弁護士・大久保映貴氏による共著、『会社を守る!社長だったら知っておくべきビジネス法務』(翔泳社)の中から一部を抜粋し、経営陣が知っておくべきビジネス関連の法律知識の基本と、会社を取り巻くトラブルへの対応策、および予防法務について説明します。

契約の成立に契約書は必要ない!?

<事例>
当社史上最高の自信作である新製品(販売価格:1,000万円)が完成し、幸先よく注文もとれそうです。ただ、その会社は全くの新規取引先なのに契約書を作ることもなく、ここまで電話だけで話が進んでいます。

当社にとっても非常に重要な製品であるため、何かあったらと心配です。電話で話している内容は単なる口約束なので、問題があった場合はあとで取り消すことが可能でしょうか? それとも、きちんと契約書を作っておくべきなのでしょうか? また、契約書を作成する場合、ポイントはどこにあるでしょう?

 

 

契約という言葉をよく耳にしますが、そもそも契約とは何でしょうか? 契約を理解するために、ここでは契約がどのように成立するのか、契約が成立するとどうなるのかという点を説明していきます。

 

契約というのは、お互いの意思が一致することをいいます。意思の一致というのはわかりにくいので、具体的な場面をイメージしてみましょう。冒頭の事例で、社長と新規取引先は、電話で次のような会話をしています。

 

新規取引先:ホームページで見た新製品ですが、いくらですか?

社長:1,000万円です。

新規取引先:買います。

社長:売ります。

 

これで、1,000万円の新製品1個の売買契約が成立します。この場合、契約書は作成されておらず、1,000万円という高額の取引が顔も合わせずに電話だけでポンと成立してしまうのです。ちょっと怖いですね。

 

もっと身近な例でいうと、コンビニエンスストアや家電量販店で買い物をするときも契約書は作成しませんが、契約は成立しています。つまり、契約の成立に契約書は必要ありません。

 

ここでのポイントをまとめると、契約は口約束でも成立し、契約書の作成は必要ないということです。ただし、保証契約を締結するときは書面で契約を締結する必要がある等(民法第446条第2項)、例外はあるので注意してください。

 

契約が成立すると、契約に基づいて、契約をしたそれぞれの人に権利と義務が発生します。権利というのは、契約の相手に対して契約した内容を求めることができることをいいます。義務はその逆で、契約の相手方が求める内容を行わなければならないことをいいます。

 

先の事例でいうと、買った人は買った新製品を渡すよう求めること(権利)ができるのに対し、売った人は、新製品を渡さなければなりません(義務)。また、売った人は、1,000万円を払うよう求めること(権利)ができるのに対し、買った人は1,000万円を払わなければなりません(義務)。権利と義務は表裏一体の関係といえます。

 

このように、契約すると、契約した人は契約に従わなければなりません。

 

[図表]契約成立後の義務と権利(例)

認識の食い違い等を防ぐためにも、契約書は必要不可欠

先ほど説明したとおり、契約は口約束でも成立するのに、多くの取引では契約書が作られています。なぜ、契約書を作るのでしょうか? また、契約書とそれ以外の覚書や合意書等の書面とは何が違うのでしょうか?

 

契約書を作らなくても契約は成立するのになぜ契約書を作るのかというと、それは、後々のトラブルを防止するためです。

 

コンビニエンスストアや家電量販店等の場合には、買うものが目の前にあり、その場で商品やお金のやり取りが終わるので、後々トラブルになることはほとんどないと思います。しかし、企業間で行われる取引は、このような単純な取引だけではありません。

 

例として、ここでは複雑なソフトウェアを特注で依頼するケースで説明しましょう。このような場合、発注者が求めていた内容と受注者が考えていた内容に食い違いが生じることがあります。

 

希望していた内容を全く満たさないソフトウェアが納品されたけどやり直してもらえない、逆に、当初約束していたソフトウェアを納品したのに何度もやり直しをさせられるといったトラブルが絶えません。ソフトウェアに限らず、機械の発注やコンサルティング等、色々な契約でトラブルが発生しています。

 

このようなトラブルを防ぐためにも、口約束だけで取引を進めていくのではなく、最初にきちんとした契約書を作成すること、途中で仕様や内容が変わった場合には、その変わったあとの内容をきちんと書面にしておくことが重要です。

 

企業が取引先との間で書面を交わすとき、「契約書」というタイトルの書面を交わすこともあれば、「覚書」「合意書」「確認書」「発注書(注文書)」「請書」というタイトルの書面等、様々な書面があります。

 

たまに、「契約書ではなくて覚書だから、拘束力はないんですよね?」といったご相談を受けますが、覚書でも契約上の効果は発生します。契約の当事者間で合意した内容が書面になっていれば、「契約書」であろうが、「覚書」であろうが、効果は変わりません。

会社を守る! 社長だったら知っておくべきビジネス法務

会社を守る! 社長だったら知っておくべきビジネス法務

初澤 寛成,大久保 映貴

翔泳社

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