今回は、名家のコレクションから美術品の「土地柄」について探ります。※本連載は、国立歴史民俗博物館の教授で、東アジア史を専門とする西谷大氏による著書、『ニセモノ図鑑:贋作と模倣からみた日本の文化史』(河出書房新社)より一部を抜粋し、「ニセモノ」が求められてきた歴史的背景に加え、心理につけ込んだ「騙しのテクニック」についても言及します。

所蔵する家の性格や立地を物語る「作品群」

前回の続きである。

 

現在、N家には江戸から明治のさまざまな書画が伝えられており、絵画に絞って見た時、その内訳は狩野派から四條派、南画、琳派など多岐にわたるが、池大雅や岡田米山人、田能村竹田、頼山陽など南画家の落款を有する作品が目につく。

 

「万巻の書を読み万里の道を行く」ことを理想とした南画は、他の流派以上に旅と作画活動とが密接な関係をもつが、生涯を通じて数多くの旅をした大雅や、生国の豊後(大分県)と山陽ら知友の住む京阪とを行き来した竹田の落款を有する作品が所蔵されているのは、この家の性格や立地と関係している。

酒井抱一の落款をもつ作品が多く所蔵されていた理由

ただ、それ以上に所蔵品で目立つのが、酒井抱一(一七六一〜一八二八)の落款をもつ諸作品である。現在の高砂市域のほとんどは姫路藩一五万石の領内に含まれるが、抱一はその姫路藩主の家系に生まれた(兄の忠以が一〇代目の藩主となる)。

 

名門の出でありながら他の大名家からの養子縁組を断り、文化人たちと交遊して自由な生涯を送った抱一は、尾形光琳の画業を顕彰し、江戸琳派の大成者となった。彼自身は江戸の町で花鳥風月を愛でつつ自由な生涯を送ったが、その出自から酒井家関係の作画依頼は少なくなかったと思われる。

 

残念ながら、N家の抱一落款の作品のすべては、抱一その人の作とは考え難い。しかし、この家に抱一を称する作品が所蔵されるのも、その立地と深い関わりがあるからである。

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