今回は、旧家のコレクションから「ニセモノ」の地域性を探っていきましょう。※本連載は、国立歴史民俗博物館の教授で、東アジア史を専門とする西谷大氏による著書、『ニセモノ図鑑:贋作と模倣からみた日本の文化史』(河出書房新社)より一部を抜粋し、「ニセモノ」が求められてきた歴史的背景に加え、心理につけ込んだ「騙しのテクニック」についても言及します。

旧家の「威信財」としての書画

ニセモノにも地域性がある。ここでは地方の旧家に伝わる書画を取り上げてみよう。

 

幕府の牧(馬の放牧場)を管轄する牧士は士分に準じ、地域においては大きな敬意を払われる家柄である。千葉県の牧士を祖とする家に伝わる画幅のなかに、関東南画の中心絵師として江戸で活躍した谷文晁(一七六三~一八四〇)の落款(※1)を有する作品がいくつか見られるのは、江戸近郷という立地を反映したものである。

 

(※1)落款・・・書画が完成した時に、筆者が自ら書き記す、署名や雅号の印。

 

一方、雪舟の落款を有する対幅(※2)は残念ながら真作とは言い難いが、樹木や岩塊の形状、溌墨(墨の濃淡を生かした草筆画風の一種)描写、落款書体や印章などの諸要素には、雪舟画の十分な研究(※3)のあとがうかがえる。

 

(※2)対幅・・・二幅で一対になっている書画の掛け軸。

 

(※3)雪舟画の十分な研究・・・江戸幕府の御用絵師である狩野派は、雪舟の画風を手本としていた。そのため、当時の狩野派の絵師は、雪舟作品のモチーフや筆致などを徹底的に習得していた。

 

 

上述のような教育を受けた狩野派の絵師が制作したものと思われるが、幕府奥絵師(御用絵師のなかで最高位)木挽町狩野家当主の周信の箱書、その末裔でやはり当主となった伊川栄信が真筆と判断したとする添帖が付属しており、十二分な権威付けがはかられている。同家にはこの他に名だたる狩野派絵師の落款を有する画も複数伝えられている。

 

雪舟落款の山水画などと併せ、幕府の権威との連想から同家の格式を高める役割を担う、一種の「威信財(※4)」として機能した可能性もある。

 

(※4)威信財・・・入手が容易ではない、珍しい物品。所有していることで、社会的な地位や支配権の証しとなるような品々。

その地域出身の偉人と関連付けたニセモノも多い

山口県M家は瀬戸内海に浮かぶ周防大島に位置する。島とは言っても周囲が一六〇キロメートルにも及ぶ周防大島は瀬戸内海で三番目の大きさを誇る。M家は島の西部、旧大島町のとある集落で村長などの村役を務めた家である。地元の社寺に残る奉納物に刻まれた名前からは、戦前のM家の繁栄ぶりをうかがうことができる。

 

本書で取り上げている書画は八〇歳代になる現当主の先代までの当主が集めたものである。ただし、現当主の兄(故人。離郷し神奈川県に家を構えていた)の妻の実家から譲り受けた書画も含まれている。この家は周防大島の同じ集落の大きな商家であった。

 

同家のコレクションには鑑定書を伴った雪舟の作とされる「鷹之絵」がある。一般に知られる雪舟の絵画からはかけ離れた本作は、おおよそ真作とは考えられないが、雪舟ゆかりの山口近辺に伝わることに意味があろう。吉田松陰や桂太郎の書とされるものを同家が所蔵しているのも、この地域ならではの特色である。

ニセモノ図鑑:贋作と模倣からみた 日本の文化史

ニセモノ図鑑:贋作と模倣からみた 日本の文化史

西谷 大

河出書房新社

ニセモノが悪で、ホンモノは善か? 贋金、偽文書、書画骨董の贋作から人魚のミイラまで、様々なニセモノが文化史の深層を語ります。ニセモノ図版多数で、目で見ても楽しめる一冊です!

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