エアビーアンドビー、ウーバーの問題点
ここで一度、新しい時代を象徴していると見られているいくつかの企業について、そのビジネスモデルを検討してみよう。それは本当に新しい時代を示しているのだろうか? 新しいとしたら、どのような点だろうか?
まず本書の序章で紹介したエアビーアンドビーはスペースを、ウーバーは車をシェアするウェブサービスだ。ユーザーがゲストにもホストにもなることができるシェアリングエコノミー型C to Cのビジネスモデルで新たなUXを生みだしたという意味では、たしかに革新的だ。ホテル業界やタクシー業界など、既存のB to Cのビジネスモデルが満たしていなかったニーズを満たし、急速に世界に広がったユニコーン企業の代表例とされている。
しかし、どちらもインターネットを活用してC(コンシューマー/消費者)をP to PのP(Peer/ピア)として取り込むことには成功しているが、既存の広大な産業中に存在する個人(企業の従業員)を、ビジネスのピアとして取り込むことはできていない。彼ら個人がエアビーアンドビーやウーバーに参加するとしても、勤務する企業の従業員としてではなく、勤務外の単なる一個人としてであって、彼らが所属する巨大な産業構造の中にP to Pの仕組みを持ち込むような変革を生みだしているわけではないのだ。
日本では多くの小規模な旅館・ホテルがエアビーアンドビーに登録して顧客を獲得しているが、これはブランド力・宣伝力の弱い既存のB to C企業が、エアビーアンドビーをB to Cビジネスの広告メディアとして活用しているだけだ。
つまりこれらのユニコーン企業のビジネスモデルは、ドラッカーが予言した「ネクスト・ソサエティ」への移行を実現する5大要件のうち、「1企業の従業員支配からプロフェッショナル主導へ」と「2画一的フルタイム労働から勤務の多様化へ」この2つを満たしたにすぎない。したがって、これらユニコーン企業は、あらゆる産業が垂直型から水平協働型へ移行していく巨大な流れの前触れではあっても、本流ではないのだ。
他にも便利屋的な人のサービスをシェアするビジネスや、モノをシェアするビジネスなどからユニコーンと呼べる急成長企業が生まれているが、これらもそれ自体が社会を根底から変えていくほどの大きな流れにはなっていない。
これらの動きが合わさって、産業構造を変えてしまうような革命になるためには、個々の業界の枠を超えたコラボレーションが生まれる必要がある。つまりどのユニコーン企業もまだ発展途上にあり、社会を変える力になるためには、それぞれの業界の枠を壊して進化する必要があるのだ。それができなければ、それができる企業に駆逐される可能性もある。
アマゾンは垂直統合型と水平協働型が共存したビジネス
それではもう少し前、90年代にスタートしたアマゾンはどうだろう?
アマゾンはスタートからしばらくは「オンライン書店」だった。その後、少しずつ扱う商品を拡大し、販売網を世界中に拡大して、最強の「ネット通販」企業になり、既存の書店や小売業に大打撃を与えながら急成長した。ウェブビジネス最大の成功例と言えるかもしれないが、ビジネスモデルとしては垂直統合型だ。
90年代からこれまでに生まれた多くの「ネット通販」「eコマース」企業の中で、アマゾンが突出して大きな成功をおさめることができたのは、優秀なエンジニアを集め、ICT(情報・通信に関する技術)を駆使してユーザーに新しい便利さを提供し続けてきたから、言い換えればUXを最大化してきたからだ。
たとえば、翌日配達から即日配達、1時間配達など、配達の高速化や、今注文した商品がどこにあるかまでわかる仕組み、電子書籍とその端末「キンドル」の開発など、アマゾンは常にユーザーが驚きや喜びを感じるレベルで新しいUXを開発・提供し続けている。つまりアマゾンは「ネット通販」企業としてモノを売っているのではなく、UXを売っているのだ。
そしてアマゾンにはもうひとつの顔がある。それが2006年に立ち上げたAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)というクラウドサービスだ。スタート時点ではまだクラウド・コンピューティングという言葉・概念すら一般には存在していなかった。元々はネット通販事業のためにグローバルに展開していたデータセンターの有り余る情報処理能力を活用したのが始まりだと言われる。
ユーザーにとってハード・ソフトの巨額な投資を必要とせず、低コストで柔軟にコンピュータの能力を活用できるとあって、このクラウドサービスはたちまち多くの企業ユーザーを獲得した。今では190か国で数十万のビジネス、100万人のユーザーに使われているという8。
8. AWS のホームページ「AWS について」https://aws.amazon.com/jp/about-aws/
「グローバルプラットフォーム」https://aws.amazon.com/jp/what-is-aws/(いずれ
も2016 年11 月1 日にアクセス)
注目すべきなのは、このAWSが膨大なビジネスのプラットフォームとして活用されていることだ。アマゾンがいちいちシステムを企画・提案しなくても、ユーザー側が自ら新しいビジネスモデルを考え、AWSを利用してつながり、活動を広げている。アマゾン自体のビジネスモデルは垂直統合型でも、AWSという新規ビジネスがプラットフォームとしてユーザーの水平協働型ビジネスをサポートしていくことは可能だ。
この先もアマゾンが成長していくとしたら、まだまだ変化していくだろう。巨大に成長した企業も勝利を確実にしたわけではなく、新しい社会に向けて、先を読みながら自分を変えていくしかないのだ。