子どもは身の危険を察知し、回避する力が未熟
床の傾きによる被害は、工場や倉庫、店舗を運営する会社だけの問題ではありません。本来、安全であって当たり前の校舎では、床のほんのわずかな傾き・たわみが子どもたちの学校生活を危険なものに変えてしまいます。
ある小学校では、校舎の廊下のある地点でだけ、転ぶ子どもが多いという不思議な現象が起きていました。もちろん転んですりむく程度ならよいのですが、転んで骨折してしまう子どもまで出るに至っては、問題を放置してはいられません。
走ってはいけない廊下を走るからだとか、ちょうど曲がり角なので滑りやすいからだとか理由は考えられたものの、子どもはそこだけ走るわけでもありませんし、他にも曲がり角はあります。よくよく調べた結果、この地点でわずかに床に傾斜がついていることがわかりました。どうやら、そのわずかな傾斜が事故の引き金になっていたのです。
たわんでいる床は、その上にいる人たちの平衡感覚にも悪影響を与えます。それを考えると、子どもたちが日常的に運動をする学校の体育館で不同沈下が起き、床の水平が保たれていないという事態は、非常に危険です。
特に小学校では、1階を使うのは低学年の児童や特別支援学級の児童です。身の危険を察知し回避する力が未熟な子どもたちですから、床の傾きは事故に直結しやすいのです。
公立校の場合、予算が取れず沈下修正が行えないことも
学校の場合、長時間を過ごす先生方が平衡感覚の異変に気づき、床の傾きを疑って教育委員会に相談するケースが多いのですが、しかし、地方の小さな自治体の公立校の場合、なかなか予算が取れず、沈下修正が行えないでいる場合も少なからずあります。
たとえば、三重県のある学校の体育館は緩やかに床面が窪んでいるのですが、そのために、バスケットボールのバウンドが変わってしまうのだそうです。冗談のような話ですが、実際にそこで運動をする子どもたちにとってはたまったものではありません。
バスケットボール部の顧問の先生は、こんな場所でバスケなどさせたくないと嘆いていましたが、予算の問題でなかなか手がつけられずにいます。
もうひとつ指摘しておきたいのが、学校の耐震化に関してです。現在、公立の小中学校の多くは耐震化工事を行っていますが、その工事というのは基本的には学校の壁を鉄骨などで補強し、建物を倒れないようにするというものです。
しかし実は、それだけでは不十分です。壁だけではなく床の損傷を防ぐための対策も同時に行う必要があるのです。
例えば体育館は、地震発生後の避難所として使われることがよくあります。ところが地震後に建物は残っていても、フローリングの木材がばきばきに割れて床がひどく損傷してしまうケースが多々あるのです。
そうなってしまうと、そこに住むことはおろか入ることすらできないでしょう。地震後も建物が機能し続けるためには、床も同時に調べる必要があるのです。
では、床はどのように調べるのか。まずは、地盤の状況と建物の傾きを調べる必要があります。それでなにも問題がなければいいのですが、もし地盤に空隙があったり、建物が沈下して傾いたりしているなら、それは床がゆがんだ状態になっているということの証明です。
地震が起きればそのゆがみにさらなる負荷がかかり、床が損傷してしまいますから、あらかじめ地盤の空隙を埋め、建物の傾きも修正しておくことが、万が一の床の損傷を防ぐことにつながります。