隙間は冷暖房効率を悪化させる上、カビの発生源にも
ここまでの連載では、地盤沈下によって床が傾いた建物で起こる異変を中心にお話をしてきました。
目で見て床が傾いている場合は別として、多くのケースでは、建物内で起こる異変には気づいても、その真の原因が沈下による床の傾き・たわみにあることを知るまでに、ある程度の時間がかかっても無理はありません。
床の傾きは、目視ではなかなか認知できませんし、異変の症状が大きすぎるため、もっとわかりやすいところに原因を求めてしまうのが普通ですから。
ここでは、床が傾いている建物によく見られる特徴、つまり床の傾きが原因で起こる異変が建物そのものに現れるケースについてご説明しましょう。
よく見かけるのは、床や壁に走る亀裂です。沈下による傾きを床や壁が支えきれず、結果として亀裂が生じます。特に床に生じた亀裂は、振動や崩落を招きかねません。
そして、床と壁の間、あるいは壁と天井の間にできる隙間も見られます。
地盤の沈下に伴って床も下がっていく場合、それに引きずられて壁も下がるなら天井(梁や柱で支えられているため下がりづらい)との間に隙間が、床だけが下がるなら床と壁の間に隙間が生じるのです。
こうした隙間は冷暖房効率を悪化させますし、湿気が溜まってカビなどの発生源になりますから、衛生管理上もよいものではありません。
また、ある調査によると、地盤沈下があった土地の建物で最も顕著に見られる損害は、コンクリートブロック塀の損傷と、外壁の亀裂や一部崩落なのだそうです。先に述べたような異変が現れているなら、まずは建物の外側をよく見てみることをおすすめします。
作業効率を著しく下げる、扉などの不具合
次に多いのが、建具の建て付け不良・開閉不良でした。
扉やシャッター、窓そのものは矩形をしっかり保っていても、それが取り付けられているフレームや壁が地盤沈下によってたわむため、きちんと整合しなくなってしまうのです。
これは住宅の例ですが、不同沈下が進んで玄関の扉が閉められなくなり、施錠もできないので、誰かが家にいないと出かけられないご家族に出会いました。家族揃っての外出や旅行などは「夢のまた夢」。修正工事をして玄関の扉が閉まった瞬間、「これで出かけられる!」と、皆さんが喜んでいらっしゃったのをよく覚えています。事業用の建物だとすると、どうでしょう。
扉が開きづらい・閉めづらいという状態は、出入りする人たちが不便を感じる以上に、深刻な被害をもたらします。
まず、荷物の搬出入を伴う事業なら、作業効率が下がるのはいうまでもありません。それを解消するため、人の心理として、どうしても扉を長く開放したがるのです。開けっ放しにしておけば、閉める時に苦労しない。そう考えます。反対に扉が開けづらくなったとしても、開けっ放しにしておけば再び開ける時に苦労しないと考えるものです。
そうして開放の時間が長くなる結果、冷暖房効率は急低下しますから、光熱費は高騰します。一般の建物内での熱伝導効率は、冷暖房とも室内外の温度差に大きく依存するのです。
先の震災以来、企業活動における節電が急務となり、電気料金の値上げが想定される昨今、経営としては光熱費の高止まりはどうしても避けたいところでしょう。
一方、扉を開放することによる大きな被害——ホコリの問題があります。アレルギー症状やぜんそくなど、健康被害も見逃せませんが、ホコリは熱放出の効率を低下させ、OA機器をはじめすべての機械類の寿命を確実に縮めます。これを防ぐには、強力な集塵機を設置したり、頻繁にクリーニング保守を実施するしかありません。当然のことながら、相応のコストがかかります。
たかが扉の開けっ放しと侮ることなかれ。支払う代償は大変大きいのです。