人は「わずか0.6度程度の傾き」で具合が悪くなる
床の傾きによって生じる問題は、物理的な、建物としての機能の障害ばかりではありません。
日本建築学会がまとめた、過去の震災による経験や実験に基づく複数の研究結果の資料によれば、人はわずか0.29度の傾きで傾斜を感じ、0.46度になると苦情が多発するようになるのだそうです。
さらに、わずか0.6度程度の傾きがあるだけで、目まいや頭痛などを訴える人が出てくるのだそうです。さらに1度を超えると牽引感、浮遊感を覚える人が増え、2〜3度になると吐き気や食欲不振など、かなり重い症状も出てくると言います。
分度器をお持ちでしたら、紙の上に「1度」を取ってみてください。ほとんど水平と変わらないと思います。筆記具によっては、0度の線と1度の線を描き分けることすら難しいでしょう。
しかし、さすが、われら人類の精巧な平衡感覚。1度未満の微妙な傾きもしっかりと感じとり、“症状”として主人に訴えかけてきます。
一方、本来、水平・垂直であるべきところが傾いていると、「そうあるべき」と頭で考えている部分と、実際の身体の感覚とに食い違いが起き、それがだんだんと健康上の障害につながってくるという見方もあります。
また、ある会社が30〜50代の日本人男性を対象に調査をしたところ、「まったく健康で体調の悪さを感じたことがない」という人は、2割弱。8割以上が体調不良を感じているという結果が出たそうです(養命酒製造「30〜50代の健康意識と実態調査」)。
社員の健康のために、まず建物が傾いていないかを疑う
本書籍の第1章の終わりで「9割の建物が地盤に起因する歪みの問題を抱えている」という説があることをお話ししています。
健康だと感じている人が2割弱という実態は、ストレスや生活習慣といった直接的な原因が大きく影響しているのでしょうが、建物の床の傾き・たわみという目に見えない原因がベースになっている可能性も疑ってみる必要がありそうです。
このように、不同沈下による建物の傾き・たわみは、その建物を利用する人の健康にもさまざまなトラブルを引き起こします。事業の運営はモノやカネの前にヒトあってこそなのですから、健康被害は決して軽視することはできません。