地代滞納を解決し、借地人・地主双方の利益を実現
2012年の暮れのことです。借地権者が地代を払えなくなり、しばらく滞納した場合は、どのようにしたらよいかとの相談が借地権者側からありました。この件は、89歳になる借地人の女性が認知症になり、家庭裁判所が選任した成年後見人の方から家庭裁判所の許可を得ての相談案件でした。
すでに生活費が底をつき、地代の約1年分に当たる100万円ほどの滞納が発生していました。場所は東京都港区白金の一等地。20坪の敷地に建つ築後50年の古い棟割長屋のひとつです。
古い棟割長屋は市場性がまったくないため、底地と一体で、かつ隣地にある同じく古い棟割長屋とも一体で売却しなければこのケースは解決できないと考えられました。地主と隣地の借地人にそれぞれ事情を説明し、一体売却の必要性を訴えることになりました。
地主には滞納地代の支払い猶予と売却による返済、および底地の第三者への売却の必要性を説き、隣地の借地人には、建て替えの必要性と一体売却による資金の捻出と買い替えを粘り強く説得しました。その結果、すべての一体売却で合意。完全所有権で1億数千万円になった売却代金を、地主と2人の借地権者で3対3.5対3.5の割合で配分し、やっと解決できました。
このように借地権のある不動産は、その市場性が低く売却は難しいものですが、知恵を使えば解決できます。地主からも長年の滞納地代が解決し、今後20年分の地代がいま現金で手に入ったと感謝されました。
資産家が元気なうちに「完全所有権」を確立しておく
借地権に関わる相続税対策についても、ここで少し触れておきましょう。たとえば、借地権付き建物を所有していて借地権をそのまま相続する際には、建物の借地権価格を評価し、その評価額に対して相続税がかかります。ところが、借地権付き建物は、相続するときに売却することもできるということを知っておくべきです。
とはいえ前述したように、売却は極めて難しいものです。地主がOKするかどうかわかりませんし、OKしても名義書換料を要求されるケースもあります。
その対策としては、事前に等価交換の話をしておくことです。たとえば100坪の借地があるとしたら、地主に50坪をあげて、自分は地主から底地を50坪もらって分けることを相談しておくのです。そうすれば、双方ともに完全所有権の不動産になります。
もし、資産家自身にお金があり、地主が底地を所有していて、その地主に相続が発生した場合、地主は相続税を納めるために底地を購入してほしいと申し出るかもしれません。そのような状況があれば、その土地は買いのチャンスです。相場よりも安く購入できるケースが多いでしょう。
土地という資産の価値を維持するポイントは、借地や借家の扱いをなくして完全所有権として持っておくことです。
戦後、寺院や従来の地主が自分の土地を貸し、そこに家を建てた賃借人が地代を払っている状態で、数十年もそのままにしているケースもよく見受けられます。そうなると借地権が発生します。その土地を貸した寺院や地主側としては、底地をどのように生かしていくのか、また相続をスムーズに行うことができるかという問題になってきます。
新しい商業モールなどを建てた土地は新法に基づく定期借地権なので問題ないのですが、古くからの借地人が建てて住んでいるこのような住宅は旧法に基づく貸宅地なので、相続のときには3割ないし5割で評価され、担保価値がなくなる点が問題になります。そのため、寺院や地主側が銀行から相続税の納税資金を借りたいと思っても、担保が不十分であると判断されてしまうようなことがあるのです。こうしたことからも、資産家が元気なうちに完全所有権にしておくことが重要であることがわかるでしょう。
様々な土地の有効活用の方法と留意点を取り上げてきましたが、その方法はいずれもメリットとデメリットが裏腹になっているものです。だからこそ、資産家自身がどの視点から不動産を見て、何をもって有効活用と判断するのかを自分で決めていくことが重要なのです。そのことを忘れないでいただきたいと思います。