目先の借入額や返済額だけでなく、老後も視野に
前回の続きです。
また、「借入れ出来る金額」と「返済出来る金額」は同じではありません。借入れ可能額は、返済比率(返済負担率)で決まりますが、数字だけを見れば、同じ年収、同じ借入れ期間であれば、借入れ可能額は同じになります。しかし、同じ年収で「子どもがいない家庭」と「子どもが二人いる家庭」とで、はたして返済可能額は一緒なのでしょうか。進学による教育資金という大きな出費を抱えて、借入れ可能額の上限まで借りてしまって、収支バランスは崩れないのでしょうか。
借りられるならば建てられる。しかし、お子さんが幼稚園や小学校の間はよくても、中学、高校、大学と進んだ将来、返せなくなってしまったという人はたくさんいます。将来にわたって、家族にとって理想的な生活を送るために新居を建てるわけです。そこが本末転倒になってしまっているケースがあまりに多いのです。
あるいは、借入れ可能額の上限いっぱいまで借りてしまったうえ、その後、転職などによって収入が減ったことにより大切な家族や趣味に使うお金が全くない……という人も増えています。
先行き不透明な経済や雇用問題など、不安要素が多い現代だからこそ、目先の借入れ可能額や返済額だけに一喜一憂することなく、家族の時間や趣味を楽しめる暮らしを送ること、それも家づくりの大きな要素となっている点を忘れないでほしいと思います。
もう一度立ち止まって考えてみてください。いくら借りられても、借りてはいけないラインというものが必ずあるのです。まずは老後に至るまで、どんな生活を送りたいのか。それが最優先です。そのために必要なお金には一切手をつけずに住宅の取得計画は進められなければなりません。その資金返済プランであれば、思い描いている生活ができる。そのラインがわからずに土地の購入や住宅建築の契約などはできるはずがないのです。
しかし業者側の誘導でそこを間違えると、もう行きつけるべきところまで行きつくことができなくなり、途中で行き止まってしまいます。
「背中を押す」だけがFPの役目ではない
だからこそ、まずはライフシミュレーションから入るべきなのです。もちろん、背中を押す役目ではなく、誠実なFPの手によるライフシミュレーションです。それにより、どこまで本当にお金をかけていいか、身の丈に合った住宅の取得、そのためのマックスの予算をまずつかんでほしいのです。
FPが真剣にお客様の立場に立ってシミュレーションをした結果、残念ながら、わざわざ注文住宅を建てたいと来ていただいたお客様に、その注文住宅を諦めていただくしかないという結果になることもあるはずです。しかし、それが本当の相談というものではないでしょうか。