文化も経済も恵まれながら、生活費が少なくて済む理由
ベルリンは、欧州諸国のなかでも最も勢いよく発展を続ける首都のひとつだと評価されています。その要因となっているのが、暮らしの質の高さ、確実な経済成長、そして創造意欲に燃えた起業家が活躍しやすい環境です。
ドイツ国内の他都市に比べても、ベルリンの雇用成長率は群を抜いており、経済的に大きな牽引力を発揮していることは、疑う余地がないでしょう。
ベルリンには、芸術、教育、研究、起業などの分野において、国際的に名の知られた施設が集まり、多様で活気に満ちた文化的ランドスケープを成しています。暮らしに必要な生活費は無理のない水準であり、またそれは、緑の多い郊外から都市の中心部まで、手の届く価格の家賃が保たれていることが大きく影響して います。
通勤や通学に必要な交通網は非常に優秀で、目的地への移動に無駄な時間を費やすことはありません。また、総面積890平方キロメートルの土地に存在する2,500か所もの公共緑地は、ベルリンの魅力に“花と緑”を添えています。
マネジメント・コンサルティング会社のマーサー社が毎年行っている「クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)」の調査は、多国籍企業が海外に社員を派遣する際、様々な判断の指標とされているもので、住居、教育、医療、公共サービス、交通、レクリエーション、自然環境など、39の指標に基づいて数値が決定されます。ドイツの都市は2015年度調査でも上位にランキングされていますが、ベルリンは14位となっています。これは最も生活の質が高いとされるパリ(27位)、ロンドン(40位)マドリード(51位)などの上を行く結果です。
また同社が行う「生活費の高さ」についての調査では、ベルリンは106位となっており、東京(11位)、ロンドン(12位)、ニューヨーク(16位)等の他の先進国首都と比較しても、大幅に低いことが分かります。
ドイツの首都であるにも関わらず、なぜこれほど生活費が抑えられているのでしょうか。それは、ドイツが歩んできた歴史が大きく関係しています。
25年前の1990年、東西ドイツ統一当時、破綻した経済状態であった旧東ドイツを旧西ドイツが支える形で復興が始まりました。その後、ドイツ経済は大きく発展してきましたが、戦後45年間のブランクが影響し、ベルリンの地価は現在でも、他の先進国より低い状態です。ですが、今後も地価を含めた価格上昇は、着実に進んでいくでしょう。
多くの若者が惹きつけられる「創造芸術産業」
人口の減少は先進国の大都市に共通して見られる現象ですが、ベルリンは人口増加を続けています。特に、25歳から30歳前後の増加が顕著で、ドイツ国内の他の都市と比べ、その人口統計パターンは異色とも言えます。これには、子供連れの家族や一人親家族にとって暮らし良い、ベルリンの安定したインフラが大きく貢献しています。
デイケアセンターの数は2,000を超え、就学前児童全員に対し、保育施設は3年間無料です。このように、子供の保育分野において、ベルリンの充実度は他都市よりも一歩先を進んでいます。
“YOUTHFULCITIES“という団体が行っている調査で、若者人口・雇用・環境・教育・多様性・起業・医療・食・ファッションなどの指標をもとに、主な大都市における15歳から29歳の若者を対象に、生活の質、活躍のし易さをインデックス化したものがあります。 ” YOUTHFULCITIES INDEX“と呼ばれるこの調査では、2015年、ベルリンは堂々の3位に入っています。
ベルリンに惹きつけられる若い成人が多いことには、数値的な裏付けがあります。創造芸術の分野におけるビジネスはベルリン経済のかなり大きな部分を占めて おり、その数は22,600にも上ります。そこには、音楽、映画、広告、建築、ファッション、テレビやラジオ、出版、研究開発、ビデオゲームといったクリ エイティブ産業が含まれます。これらのビジネスは、ベルリンのGDPの約20%、金額にして186億ユーロを産出しているのです。
スタートアップ企業にとってベルリンが多大な吸引力を持っていることは、連載の第4回でも詳しく紹介しましたが、ヨーロッパだけでなく日本からも、活躍の場としてベルリンを選ぶ若者が増えています。
世界各国から熱い意思を抱いて集まる若者達が、互いに切磋琢磨しながら次々と新しいビジネスを開拓していることが、この都市が活気に溢れている大きな理由のひとつと言えるでしょう。