「レインズ」のような仕組みを持たないインドネシア
日本で土地や不動産を購入する場合、一般的に考えられる情報の取り方は、
●インターネットで調べる
●不動産屋に行き、情報を出してもらう
●新聞の折込を収集する
などが考えられる。ところが、インドネシア・バリ島ではこれが通用しない。なぜなら情報が整理されていないからだ。
日本で土地や家を売りたいと考えたら、売主はまず「三井のリハウス」や「東急リバブル」といった大手業者から、◯◯地所、△△不動産・管理などの地元業者など、どこかの不動産業者に相談する。
不動産業者は売主から得た物件情報を、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構データベース、「レインズ(Real Estate Information Network System)」に登録する。会員不動産会社はこのシステムにより、物件情報を受け取ったり、情報提供を行い、その情報を相互に閲覧できるのだ。
売主から情報を預かった業者はここへの登録を義務付けられており、これにより、不動産業者の顧客である売主は売却の機会損失から守られている。
しかし、バリ島にもインドネシアという国自体にも、こうした仕組みがない。バリの不動産売主は自分で土地に看板を立てるか、不動産業者に依頼するしかないのである。看板の場合、買主の目に触れなければ売れることはないし、不動産業者に依頼しても、そこに買主がいなければ売れない。
さらに異なる部分は契約制度だ。日本で不動産の売主が不動産会社に売買を依頼する場合、必ず媒介契約を結ぶ。その媒介契約には以下の3種類があるが、ほとんどの場合で専任媒介契約を結び、物件をレインズに登録する。
●「専属専任媒介契約売却」依頼は1社のみ、売主自身が売買相手を探すことができない(レインズへの登録義務)
●「専任媒介契約売却」依頼は1社のみ、売主自身が売買相手を探すことができる(レインズへの登録義務)
●「一般媒介契約売却」依頼は複数の会社に対し可能、売主自身が売買取引相手を探すことができる(レインズへの登録任意)
インドネシア、バリ島には、この専任制度もないので買主を見つければ他の不動産業者から物件の売り情報を得て、売主から手数料がもらえてしまうのである。
バリ島での不動産手数料は5%。これでは、不動産業者が物件情報を公開してもデメリットしかない。そのためバリ島では、基本的に他の業者に不動産情報を教えることはしない。
誰もが相場を知る日本ではあり得ない取引事例も…
我々不動産業者は、売り情報を直接売主(地主)から見つけるほかなく、非常に手間とコストを費やすのである。さらにバリ島は、ヒンズー教の社会でもともと閉鎖的であり、「バンジャール」という地域コミュニティ単位での繋がりが強いため、不動産の売り情報もそれぞれの村の出身者が握っている。私たちは人海戦術で彼らと繋がりを作り、彼らから不動産情報を買うので、非常に手間とコストを費やすことになる。
日本から来る投資家は簡単に「物件情報を見せて下さい」というが、日本ではお金がかからない不動産情報にも、お金がかかっているのだ。我々も投資家さんから不満を言われることがありツライのだが、その背景にはこうした事情がある。
我々には日々の活動の中で不動産情報のストックがあるが、それもその時点で使える情報とは限らない。バリ島の不動産は、物件の動きが早く、ストックしている情報の多くは、しばらくすると売却済になっている。
不確実な情報や不動産の案内に費用がかかるのは、日本人の買主には納得できないかもしれないが、逆に考えれば、不動産情報のシステムが成熟していないからこそ、チャンスがあるともいえる。
以前、我が社でも1000万円で買った土地が、2日後に1700万円で売れたということがあった。そんなことは不動産情報システムが確立し、誰もが相場を知っている日本ではあり得ないことだが、バリ島の不動産ではよくあることなのだ。