前回は、「高齢者医療」の切迫した現状を、具体的なデータとともに解説しました。今回は、高齢者は医療とどう付き合うべきかを見ていきます。

医療に関する知識を学び、これからの生き方を考える

自分の暮らしを守るためには、いらない検査や投薬を避け、必要なものだけに絞ることが大切です。では、そのためにはどうしたらいいのでしょうか?

 

いちばん確実なのは、医療に関する知識を学ぶことです。ただ、これは現実的には不可能です。医療関係者は、長い期間をかけて知識と経験を積み重ね、医療のプロフェッショナルに育ちます。それと同じことを一般の方が実行するのは無理でしょう。

 

しかし、60歳を過ぎたら、ここで説明したような社会の動きを知り、病院の事情や検査や薬のメリット・デメリットは知っておいてほしいと思います。そして、今後、大きな病気にかかったとき、どんな治療を受けたいか、介護が必要になったら、食事が食べられなくなったら、そして最期のときを、どこでどのように迎えたいのかなど、医療との付き合い方を一度考えてほしいのです。

 

これまで、検査や薬についてのみ説明してきましたが、高齢になれば糖尿病や腎臓病、心臓疾患、がんなど大きな病気にかかる人も増えます。検査で病気を見つけ、手術をするために入院し、薬漬けで半ば寝たきりの状態になってまでも長生きしたいのか、という問題もあります。

 

私は在宅訪問医として、多くの高齢者の方々の診察をしてきました。なかには検査など受けず、70歳を過ぎるまで、酒やタバコも好きなように嗜み、好きなように生きて、ある日突然倒れて、末期がんだと判明した人もいます。そのとき病院では手術や抗がん剤治療を勧められましたが、もう十分に生きたからと、自宅での診療を望み、私の患者になった方もいます。

 

私が在宅訪問医として担当してからは、なるべく苦痛を和らげる治療のみを実施し、患者がこれまでの生活を送れるようにサポートします。そうした方たちは数年で死を迎えますが、みなさん最期の瞬間まで家族と楽しく、家で過ごしています。そういう生き方と、10年長生きしたとしても、そのほとんどを病院でつらい治療を受けながら過ごすのでは、どちらが幸せでしょうか。

 

また私は患者の看取りにも立ち会っています。誰でも最期の時はなるべく苦しまずに、家族に見守られながら迎えたいと思っています。在宅訪問で担当する患者のなかで看取りを希望する人は、最後まで安らかに穏やかに自宅で過ごしていただいています。

 

しかし、多くの人は病院で、さまざまな延命処置を施され、何本ものチューブにつながれ、言葉も発せず死を迎えているのが現状です。

 

特に高齢になればなるほど、医療との付き合い方が重要です。そこで、医師や治療方針に疑問を感じたら、セカンドオピニオンの利用を考えるのもひとつの方法です。それによって、その後の生き方がよりよくなることもあります。

 

そのためにも、自身がある程度知識を持ち、信頼できる医師を見つけることも重要です。

経済状況や、悩みを省みてくれる医師を探す

いい医師を見つけるためには、たとえば医療費が高くて悩んでいるならば、ぜひ医師に相談してみて下さい。もし、あなたの経済状況や悩みなど一切聞かず、「この検査や薬は、病気を治すために必要なんです」と繰り返すだけなら、その医師には病気と患部しか見えていません。

 

一方、「医療費がかさんで生活が苦しいのですか・・・。それならリスクはありますが、この薬とこの検査はやめてみましょうか?」などのように話を聞いてくれる医師であれば、きちんと患者に向き合ってくれる医師だと判断できるでしょう。

 

医師の仕事は、見た目より忙しいものです。朝から夜まで、たくさんの患者を診察しなければなりません。インフルエンザが猛威を振るう冬や、多くの高齢者が体力を奪われる夏は、昼休みなどの休憩時間が一切とれないまま、何時間も診療に追われるケースもあります。

 

また、医学の世界では常に学び続けることが求められます。学会に参加して新しい症例や新薬についての知識を得なければなりませんし、専門医として働いている医師は、定められたプログラムに参加するなどして単位を取る必要もあるでしょう。

 

そのため、医師はどうしても、目の前にある患者ではなく、患部だけを見てしまいがちです。病気が治ることを優先し、その患者が幸せになるかどうかは後回しにする傾向があるのです。

 

その点、私の恩師である杉浦裕先生は素晴らしい方でした。杉浦先生は私が引き継いだ杉浦医院を運営するかたわら、外国人やホームレス、労働災害や職業病に苦しむ人々などを、ボランティアで支援していました。2012年に胃がんで亡くなりましたが、先生は息を引き取られる1か月前まで診察を続けました。最期まで、患者のことを第一に考えていたのです。

 

その杉浦先生が何より大切にしていたのは、「患者さんに寄り添う心」でした。医師は病気だけを診るのではない。目の前にいる人を診るのだというのが、先生の教えだったのです。私はその言葉を守り、患者さんが幸せになる道をできる限り模索しようと努力しているつもりです。

本連載は、2016年9月10日刊行の書籍『長寿大国日本と「下流老人」』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

長寿大国日本と「下流老人」

長寿大国日本と「下流老人」

森 亮太

幻冬舎メディアコンサルティング

日本が超高齢社会に突入し、社会保障費の急膨張が問題になっている昨今、高齢者の中で医療を受けられない「医療難民」、貧窮する「下流老人」が増え続けていることがテレビや新聞、週刊誌などのメディアでしばしば取り上げられ…

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