前回に引き続き、顧問税理士などの専門家に頼りきってしまうリスクについて、事例を交えて紹介します。今回は、専門家の適切な活用方法についても併せて見ていきます。

一人の専門家だけでは、最適解を導き出せないことも

〈ケース3〉役員借入金を短期間に大きく圧縮

 

中小企業では、資金繰りなどのため社長のポケットマネーを会社に入れて運営しているというケースが少なくありません。その金額が10年、20年とたまっていくうちに、数億円単位になることもあります。

 

会計上、社長が出したこうしたポケットマネーは「役員借入金」となります。役員借入金の最大の問題は、社長が亡くなったとき、社長個人の財産となり、相続税の対象となってしまうことです。

 

通常、会社はとっくにその資金を使っており、すぐに返すことは難しいでしょう。資金がないのに巨額の相続税を払わなければならないかもしれないのです。

 

ある不動産や飲食業を営む企業では、役員借入金が2億円ほどになっていました。相続税は数千万単位でかかることになります。

 

こうした場合、顧問税理士からは毎月の給料の代わりに返済してもらう形にしたらどうかという提案がされることがあります。たとえば、毎月100万円を役員借入金の返済という形で社長宛に振り込むのです。しかし、それでも年間1200万円、2億円では15年くらいかかってしまいます。

 

そこで我々はある方法により、1年で即座に役員借入金2億円を6000万円ほどまで圧縮し、これにより、3000万円近い節税効果を達成しました。

 

実はこの会社は法人で土地建物を数多く所有していたので、その一部を役員借入金の代物弁済として、社長個人に「もの」で返済することにしたのです。不動産は個人で保有していると、「小規模宅地の特例」など、相続税評価を圧縮する仕組みがあります。個人に不動産を移すことで、相続税対策をすることもできるのです。

 

役員借入金は単純に毎月給与がわりに返済するという以外に、素早く大きな金額を圧縮することも可能なのです。

痛い目を見てから「反省する」ことがないように

専門家を活用することはとても重要です。

 

しかし、専門家を「活用する」ことと「丸投げ」することは全く別です。少なくとも、自分で理解しようとする努力はしなければなりません。そして、自分で分からなければそこで一度立ち止まることです。

 

残念なことに、痛い目を見てから反省するケースが目立ちます。まずは疑ってかかるくらいのスタンスを持ちましょう。そして、必ず複数の専門家に声を掛けてみましょう。遠慮する必要はありません。

本連載は、2016年5月25日刊行の書籍『資産防衛の新常識』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

資産防衛の新常識

資産防衛の新常識

江幡 吉昭

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の増税、マイナンバー制度や出国税の導入など、資産家を取り巻く状況が年々厳しさを増していくなか、銀行や証券会社が販売手数料を目当てに、「資産防衛のサポート」と称して富裕層に群がっている現状…。資産家が金融営…

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