価格設定の基本「Willingness To Pay(WTP)」
日本ではデフレが長く続いたために、価格をできるだけ抑えることが正義であるかのような風潮がすっかり定着してしまいました。
実際、20年前と比べると、テレビにしろ、パソコンにしろ、デジカメにしろ、100円ショップに代表される日用雑貨品にしろ、日本の物価は確実に安くなっています。
また、海外の新興国は物価が安いことから、アジアやアフリカに進出するには、製品やサービスの価格を下げなければならないと思い込んでいる経営者の方もいらっしゃいます。しかし、ものには原価がある以上、新興国市場だからといって価格を下げるのにも限界がありますし、実際のところ、富裕層や中間層が増えてきているので、輸入品は高級品として売れています。
ものの価格は、基本的に原価よりもできるだけ高くすることで、利益率を上げるようにすることになっています。
とはいえ、あまりに高すぎるとお客さまが買う気を失ってしまいますから「WTP(Willingness To Pay)」=お客さまの支払う意思のある価格よりも低くしなければなりません。これが価格設定の基本です。
[図表]WTPより低く価格設定を行う
客が納得し、企業側にも十分な利益が出る価格を探る
つまりお客さまが納得して払える金額よりも低くして、なおかつ企業側にも十分な利益が出るような価格を探る必要があります。
そのためには、どのような製品やサービスであれば、お客さまが買いたくなるのかを考えて、WTPをできるだけ高める必要があります。
しかし、個人的な印象としては、海外進出を考える日本企業は、あまりWTPについて考えていないように思います。コストをできるだけ抑えて、原価さえ下げれば、自然と利益が出るだろうという発想のほうが強いように思います。
たしかに、価格を下げることで喜ぶお客さまもいます。しかし、WTPを高めれば、価格を下げなくても、より多くのお客さまを喜ばすことができます。WTPとは、すなわち顧客満足度にほかならないからです。
国内市場で国内企業と勝負している場合は、原価の土壌が同じなので、WTPを高める努力ではなく、コスト改善努力によってライバルに差をつけることもできるかもしれません。
ところが、海外市場では事情が違います。日本でつくって日本で売っている場合は、コスト構造が同じなので価格競争が成立しますが、現地でつくって現地で売っている企業あるいは外国企業の場合はまったくコスト構造が異なるので、日本企業は価格では勝負になりません。