優先すべきは製品・サービスのマッチングだが…
海外進出にあたって、相手国を選ぶのは、あくまでも製品やサービスとのマッチングに適しているかどうかが最優先になります。どんなに台湾が好きでも、台湾で売れそうな製品やサービスが自社にないことも考えられるからです。
ですから、私も「この国がいい、あの国がいい」とすすめるつもりはありません。
近隣アジア諸国が海外輸出に有利な条件を兼ね備えているのはたしかですが「だから、アジアに輸出しましょう」というわけではなく、自社の製品やサービスが最もマッチする市場を見つけることがいちばんだと考えています。
さらにいえば、もし自社にとって最もマッチする市場が日本であり、10年後、20年後もそのままやっていけると思うのであれば、無理に海外進出する必要はないと思います。
中小企業の経営者の中には、子どももいないし自分の代で会社を清算しようと考えている人も少なくないので、それならわざわざ苦労して海外進出しなくてもいいと思います。
ただし、10年後も20年後も長期的に企業を成長させ続けたいのであれば、日本国内だけでそれを達成することは難しいと思います。
10年後、20年後に大きく成長する市場に、思いきって打って出る必要があります。
では、それはどこの国になるのか。あるいは、自社の製品やサービスが最も受け入れられそうなのはどこの地域なのかということは、しっかり考える必要があります。
そのときに、考慮に入れる情報は、多ければ多いほどいいでしょう。
外資系企業の進出を厳しく規制している国もある
市場規模や文化やニーズを考えねばならないのはもちろんですが、国によっては外資系企業の進出に厳しい規制があったり、海外からの輸入に高い関税がかけられたりするところもあります。これらの法律や規制については、SWOT分析をしながら、何となく国が絞り込まれてきた段階で、徐々に情報を集めていけばいいでしょう。
たとえば、一般的にイスラム圏の国々では、宗教上の理由から豚肉を使った食品やアルコール類は規制されていますし、そもそも市場がありません。あるいは、武器や軍需産業に転用できるようなハイテク製品も、一部の国には輸出禁止になっています。
また、基本的に途上国や新興国は、自国の産業を守りたいので、自国で生産できるような製品・サービスに関しては規制や高い関税をかけてきます。産業だけでなく、文化を守るために、コンテンツや農産物を規制することもあります。
第二次世界大戦の敗戦によって焼け野原となった日本も、戦後かなりの間、さまざまな規制で国内の産業を保護してきました。いまではかなり規制緩和や自由化が進みましたが、外資系企業や外国の製品・サービスがなかなか日本に入れなかった時期もありました。
たとえば、かつての日本には大規模小売店舗法という、中小小売店を守るために大規模店舗の出店を規制する法律がありました。この法律があった頃は、ショッピングモールなどの大型店舗はなかなかつくることができませんでした。
1990年に、アメリカの大手玩具店の「トイざらス」が日本に進出しようとしたときも、この法律があったために、締め出されたかたちになりました。
このような法律や規制は国によって異なりますから、自社の製品やサービスが、その国で円滑に展開できるかどうかを調査することは、かなり早い段階で行っておかなければ、時間と手間の無駄になってしまいます。
もちろん、規制や法律ばかりでなく、本当にニーズがあるのかどうかの市場調査も必要です。
たとえば、𠮷野家はアメリカや中国では成功しましたが、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナムなどのASEAN諸国ではあまり成功せず、撤退や事業縮小を強いられています。
これはASEAN諸国には安くておいしい手軽な外食屋台がたくさんあって競争が厳しいことが原因ではないでしょうか。同じような製品・サービスがすでにあるところに、新たに進出しても競争を勝ち抜くのは容易ではありません。