政府や財団の助けを借りることも有効な手段
経済発展段階の違いは、社会的インフラの整備度合いや市場の自由化の度合いでもあるので、先進国のほうが取り組みやすいことはたしかです。しかし、すでに述べたように新興国でも一定レベルの制度は整っています。むしろ、中間層が勃興しつつあり、市場が拡大している新興国のほうが、市場には参入しやすい場合もあります。
ですが、途上国となると、さすがに市場状況が違ってきます。
たとえば、途上国の中でもかなり新興国に近いベネズエラであっても、2016年のビッグマック価格は79円と、かなり抑えられています。おそらく、これくらいの価格にしないと、市場で受け入れられないからでしょう。
そのため、途上国への日本製品の輸出は、政府や企業向けの産業用製品か、日本でも低価格の日用品以外はなかなか難しいと思われています。しかし、まったく方法がないわけでもありません。
住友化学が開発したマラリア対策の殺虫蚊帳「オリセットネット」は、当初、現地での評価は高かったのですが、一張り20ドルという高価格から、購入者はごく限られていました。
しかし1998年に世界保健機関(WHO)などが主体となって、マラリア撲滅キャンペーンを始めたことから、オリセットネットの殺虫効果に注目が集まりました。
その結果、2003年にはWHOを通じて、イラク向けに20万張りの注文を獲得することになったのです。
2005年の世界経済フォーラムのダボス会議では、マラリア撲滅キャンペーンに賛同する女優のシャロン・ストーンの呼びかけから、オリセットネットの購入費として100万ドルの寄付が集められました。
このように、国際機関や政府などに認められることで、オリセットネットは大口の注文を獲得していったのです。
途上国の場合は、市場規模が小さいので、消費者への個別販売ではなかなか売上を大きくすることができません。
しかし、ODA(政府開発援助)など、政府や国際機関の補助金や助成金を得ることで、価格の高さを補うことができれば、市場を開拓することができます。
同社は2007年にタンザニアの蚊帳メーカーと合弁で現地工場を設立し、年間5000万張り以上の殺虫蚊帳を生産するようになりました。
「中間層以上」を狙えば国際格差も気にならない時代に
とはいえ、公的資金による援助金はいつまでも続くものではありません。
2011年頃以降、世界基金を支援する国や企業からの寄付金が減ったことと、競合製品の台頭によって価格競争が始まり、オリセットネットの売上は落ちてきました。
そこで同社は、あらためて都市部の中間層向けの市場を開拓することにしました。ケニアの大手販売代理店と組んで、都市部の主要スーパーでオリセットネットの販売を始めたのです。競合の安価な製品と差別化をはかるため、あえて廉価品の3倍の価格もつけました。
その結果、高い品質と機能を求める中間層の支持を受け、ケニアの首都ナイロビで25%のシェアを獲得したそうです。
2013年の日経ビジネスオンラインの記事によれば、同社の事業部長は「今後、物流網を拡大しスーパーへの売り込みを強化する。こうした販売促進戦略はもはや日本と一緒」と話しています。
新興国でも途上国でも、首都圏や都市部に住む富裕層や中間層は、グローバリズムの進展の中で、先進国の住民と同じような暮らしをしています。
かつては海外進出の壁になると思われていた国際格差は、いまやだんだんと問題にならなくなってきています。