在日米軍を観察して海外進出を決めたキッコーマン
現地でのニーズを探る際に、私たちが知りたいのは、まずその製品・サービスが求められているかどうかであり、次に、同じような製品・サービスがすでにあるかどうかです。
ここで難しいのが、その地に同じような製品やサービスがなくて、まったく新しい商品を売り出したい場合です。
たとえば、キッコーマンは1902年頃から、台湾へしょうゆの輸出をしていたほど、海外展開には熱心な企業です。戦前には、海外にいる日本人向けの調味料として、しょうゆを北米、南米、中国、フィリピンなどへ輸出していました。
そして第二次世界大戦後の1949年には、アメリカ人をターゲットにしてしょうゆをアメリカに輸出することにしました。ここで問題となるのは、しょうゆという日本固有の調味料が、はたしてアメリカの家庭で受け入れられるのかどうかです。それまでしょうゆはアメリカにはほとんど存在しませんから、受けるかどうかを知ることは至難の業です。
同社によれば、当時の在日米軍がしょうゆを使っていたことと、アメリカ人が食に関して保守的ではなく何でも取り入れることから進出を決めたといいますが、実際は悩ましい決断だったと思います。
「文化が似ていれば受け入れられる」わけではない!?
しかし、しょうゆそのものがアメリカに存在しないからといって、必ずしもしょうゆがアメリカで受け入れられない理由にはなりません。なぜならば、しょうゆはなかったとしても、アメリカには調味用のソースが何種類もあったからです。
調味料としてのソースに需要があるのであれば、その中の1種類としてしょうゆがあってもおかしくはないでしょう。その意味では、キッコーマンがアメリカ進出を決断したように、しょうゆが受け入れられる土壌は十分にあったと思います。
逆に、東アジア、東南アジアには、大豆を用いた発酵調味料として、しょうゆのようなものがそれぞれの国にあります。そのため、キッコーマンはASEAN諸国に進出するときのほうが難しかったようです。
しょうゆ文化がすでにあるアジアであれば、日本のしょうゆも売れそうですが、そうではありません。なぜならば、日本のしょうゆは、自分たちのしょうゆとよく似たもので、それならば、すでにある自国のしょうゆで十分だと思われてしまうからです。