前回は、事業承継を機に見直したい「メインバンク」との付き合い方について解説しました。今回は、「分散した自社株」が引き起こす事業承継のトラブルについて見ていきます。

自社株を多く保有していた叔父の急死

事業承継に伴い、後継者は自社の株式を引き継ぐことになります。その引き継ぎがスムーズに行われず、トラブルとなる例も後を絶ちません。

 

東京から1時間ほどの距離にある有名観光地で旅館を営む会社では、創業社長が死亡後、その長男が後継者となりました。

 

この会社では先代社長の弟(長男の叔父)が、長年社長の右腕として経営を支え、会社の株式をかなり保有していました。しかし、その後この叔父も急死してしまったため、それらの株式は東京で会社勤めをしている息子(叔父の子)に相続されることになりました。しかし、この叔父の子は事業に全く関与していませんでした。

感情のもつれから株式の買い取りに手間取り・・・

後継者である先代の息子は、「叔父の子が株式を持ち続けていると、経営の支障になるかもしれない」と考え、株の買い取りを持ちかけることにしました。

 

ところが、この求めに対してすぐに「イエス」の返事は返ってきませんでした。東京に勤める叔父の子は「父は会社のために懸命に頑張った。無理して働いたから早死にしたのだ。にもかかわらず、十分な報酬が与えられていなかった」と恨みにも似た感情を持っていたのです。

 

最終的に新たな経営者となった先代の息子は、5年の歳月をかけてこの叔父の子と交渉し、ようやく株を買い取ることができました。しかし、譲歩に次ぐ譲歩を余儀なくされ、買い取り価格は当初の提示価格よりもはるかに高くなってしまいました。先代の息子は「叔父が生きている間に株を買い取っておけばよかった……」と嘆きましたが、後の祭りです。

 

このように、事業承継では事業以外に「株式の保有」にも、トラブルの原因が潜んでいるのです。

本連載は、2016年10月21日刊行の書籍『「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド

「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド

大磯 毅/中山 昌則

幻冬舎メディアコンサルティング

戦後70年を迎え、多くの中小企業に降りかかっているのが「事業承継」の問題です。 しかし、現社長のなかには景気の低迷、適当な人材の不在などの理由から廃業を考える人が少なくありません。また、社長の息子や親族などの後継…

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