スイス発祥で、アクティブ運用戦略を得意とするファンドハウス「GAM」。機関投資家などプロ投資家の世界では広く知られた同社の2つのファンドにおいて、日本株のポートフォリオマネージャーを務めるのが三戸玲子氏である。スイスを本拠に活動する同氏は「日本株の現在と将来」をどう見ているのか、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス銀行)の幾田朋彦氏に伺っていただいた。

なぜ日本株のマネージャーがスイスにいるのか?

幾田 三戸玲子さんは日本株のポートフォリオマネージャーですが、そもそもなぜ日本株を扱うのにスイスにいらっしゃるのでしょうか。

 

三戸 大学卒業後は、まず日銀に入り、リサーチをやっていました。金融ビッグバンがあった時、当時の部署で、金融ビッグバンに関連する海外事例をリサーチしていた関係から運用業界に興味を持ちました。ちょうどその頃に、ゴールドマンサックスのアセットマネジメントの求人をしており、営業として受け入れて頂いたのが98年。その2年後の2000年に日本株の運用部が拡張するということで、2人新しく雇うことになり、当時営業部にいた私は、社内のインタビューを経て日本株のマネージャーとしての第一歩を踏み出しました。

 

 

さらにその6年後の2006年に、アトランティックインベストメントというニューヨークベースのヘッジファンドの立ち上げメンバーとして参加します。2011年にチューリッヒに移るわけですが、私自身、小さい頃にベルギーとフランスに合計で10年間住んでおり、いつかヨーロッパに住みたいという希望を持っていました。日本株のマネージャーをやっている以上、東京にいるという選択肢以外は、考えたことがありませんでしたし、アベノミクスが始まる前で、日本の株式市場が低迷していた時期でもあったので、人生の次なるステップとして、ヨーロッパに住みたいという希望を叶えてみようと思い立ったのです。

 

当時、ヘッドハンターには、日本株には誰も興味ないと断言をされましたが、なんと、声をかけた数か月後に連絡が入りました。現職のGAMで欠員が出たので、補充をする必要があるということを伺い、今のポストに就いたという次第です。

 

幾田 結構、紆余曲折ありましたね。でも、時節到来みたいなところがあったのではないですか?

 

三戸 そうですね。ラッキーなことに、ちょうどアベノミクスもあり、その頃は日本経済の転換期でした。日本株のマネージャーが投資家にアポイントメントを取ろうと思っても入らないような状況だったのが、しばらく日本を見ていないので、また話を聞きたいというニーズが高まり、それでやっとヨーロッパ域内で出張が入るようになったという感じです。

アベノミクスの「第3の矢」は時間のかかる政策

幾田 その話と関係するところですが、三戸玲子さん自身の転機ともなったアベノミクスをどのように見られていますか? グローバル経済の失速という外部的な要因もあるとはいえ、今一つ第三の矢(成長戦略)の効果を実感できている人は少ないように感じますが。

 

三戸 2012年にアベノミクスが始まったときから、投資家の方々に申し上げているのは、第三の矢というのは、第一の矢(金融政策)、第二の矢(財政出動)に比べて、非常に時間のかかる政策なので、矢が放たれたからと言って、簡単に利益が上がるということはないということです。例えば、法人税の引き下げで、5年以内に30%以下を目指すということは、既に始まっていますし、女性の労働参加率も2年間で数%ポイント上昇をしています。

 

 

実績はあるのですが、進捗のスピードが世間の期待値とマッチしていないのでしょう。ただ、企業経営者と話をしていても、デフレのときと違って今は値上げをするという選択肢が入ったとか、お給料が初めて上がったとか、雰囲気は良くなりました。そういう面では大きな転換だったということが言えると思いますし、アベノミクスは今のところ、それなりの成功をあげていると認めて良いのではないかと思います。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたので、GAMおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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