自宅という最大の財産をなくして「同時廃止事件」に
任意売却が先か自己破産が先かは専門家によっても意見が分かれるポイントですが、私は「任意売却が先」だと考えています。任意売却を先に行えば、自宅という最大の財産がなくなり、「同時廃止事件」にしやすいためです。
自宅を保有している人が自己破産を申し立てた場合、通常なら「財産がある」と見なされ「管財事件」になります。しかしながら管財事件の予納金は最低でも20万円、そして弁護士への報酬も合わせるとだいたい50万円から100万円くらいと高額にのぼるため、住宅ローン破綻など大きな負債を抱えている人にとってかなりの負担です。そこで住宅ローンの残債が担保となっている物件価値の1.5倍を超えるときには「同時廃止事件」として扱うことがよくあります。
ただし物件価値を証明するためには不動産鑑定士の鑑定書や路線価に関する書面、固定資産税評価証明などの書類が必要であり、それなりの手間がかかります。また任意売却してもなお債務は残るものの、1.5倍には満たないという鑑定結果が出ることも珍しくありません。費用負担を回避し面倒を避けるためにも、自己破産前に任意売却を行うのが有利な選択といえます。
自己破産の前か後かで、任意売却の成功率は変わる
自己破産の前か後かで任意売却の成功率が変わるという問題もあります。
自己破産前に行う任意売却の手続きはこれまで解説してきたとおりであり、売却に際して必要な登記費用や仲介手数料などの諸費用は売却価格に含めることができます。
自己破産後は自宅を含む財産が破産管財人の管理下に置かれるため、任意売却に際しては破産管財人の協力が必要です。そのため「手数料」的な費用として「破産財団組入金」が破産管財人に支払われます。「破産財団組入金」は売却価格の3~5%程度ですが、諸費用として扱われ、売却代金に含まれるので、自己破産後の任意売却ではその分、債権者の回収できる金額が減ることになります。
債権者は取り分が減るのを避けるため、売却価格を引き上げるよう求めてくることが多いのですが、価格が高くなれば購入希望者は現れにくくなり、任意売却の成功率は低下します。
返済が厳しく、自己破産を覚悟している依頼人の中には、「どうせ自己破産するのなら、先に任意売却をする必要なんてないのでは?」という人もいますが、かかる費用や時間、任意売却の成功率などを考えると、「任意売却→自己破産」という順序のほうが債務者にとってはるかに有利なのです。