「一帯一路」の沿線市場を取り込みたい中国
事の起こりは、米議会が国際通貨基金(IMF)での中国と他の新興国の議決権拡大に関する2010年の合意を承認しないことを不服として、中国が独自の道を進むことにしたこと。
AIIBの創設時の資本金は500億ドルと小さい。が、問題は中国がAIIBの創設で何を得ようとしているかだ。AIIB構想で、中国は「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想の下、アジアから欧州にかけてインフラ整備に資金を供給する計画だ。
一帯一路の沿線には中国を含めて65ヵ国があり、その総人口は世界の約6割に当たる44億人。一人当たりのGDOはまだ低いが、このルートを通じて国内の過剰生産・設備の解消を行ない、経済発展後にはこれらの市場をも取り込み人民元経済圏を作るのが狙いだ。
[図表1]中国のインフラ投資戦略
更に、中国にとって最大の貿易パートナーであるヨーロッパ連合(EU)とのパイプを太くすることも視野にある。AIIBはその資金源となる。
人民元による融資資金調達の難しさが課題だが・・・
AIIBが抱えている最大の問題は、融資資金の調達コスト。中国が日本や欧米の金融機関並みのコストで資金調達できるようになるには、民主主義の導入や資本の自由化などを行ない、先進諸国に認められる必要がある。
そこで例えば、ドル建てではなく、中国の銀行から人民元で資金を調達して、人民元で融資をするという手はある。
ただ、人民元での決済が一部地域でしか行なわれていない現状では使い勝手が悪い。世界での通貨決済の60〜70%はドルで行なわれている。
例えば、円は先進国ならどこでも世界通貨のドルと転換できる。しかし、人民元をドルと自由に転換できるマーケットはごくわずか。資本の自由化ができない限り、人民元での融資には限界がある。
それでも、人民元が少しずつ国際取引で認められつつあるのも事実だ。オフショア市場(規制や課税方式などを国内市場とは切り離し、比較的自由な取引を認めた国際金融市場)での取引高はこの1年間で大きく膨らんでいる。アジアを中心に支払いや決済で人民元の利用が拡大しており、最近では人民元は通貨の出来高規模でトップ5に入っている。
また、中国以外の50カ国以上の中央銀行が人民元を利用したり、外貨準備の一部として人民元を保有し始めたりしている。
国際通貨基金(IMF)で人民元を特別引出権(SDR)通貨に採用されたこともあり、人民元の利用が一層進み、人民元の国際化も大きく前進する可能性は高い。