(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢になり、広い一戸建てでの暮らしに負担を感じる人もいるでしょう。階段の上り下りや庭の手入れ、老朽化した設備の修繕など、長年住み慣れた家にも気がかりな点は増えていきます。離れて暮らす子どもから住み替えを勧められることもありますが、家への思い入れや今後の生活について、親子の考えが一致するとは限りません。東京都内で一人暮らしをする82歳男性も、息子が持参した一枚の書類をきっかけに、親子で話し合うことになりました。 ※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。

「心配しているのはわかるけど」住み慣れた家を手放せない理由

数日後、修一さんは改めて査定書を取り出しました。

 

5,200万円という金額は、想像していたよりも高いものでした。ただ、そこに書かれているのは、あくまで売却価格の目安です。

 

「高く売れるのはありがたいけど、その後のことを考えないといけません。マンションを買うにしてもお金がかかるし、今の近所の人たちとも離れることになりますから」

 

修一さんが長く通っている病院も、買い物をする商店街も、今の家から歩いて行ける距離にあります。

 

内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、現在の住宅の問題点として「住まいが古くなり、いたんでいる」を挙げた人は29.5%、「段差や階段等があり使いにくい」は12.7%、「住宅が広すぎる」は10.4%でした。

 

また同調査では、現在住んでいる地域に住み続ける予定が「ある」と回答した人が94.0%に上っています。高齢者の大多数が、住み慣れた地域での暮らしを続けたいと考えていることがうかがえます。

 

翌週、修一さんは健司さんに電話をかけました。

 

「この前の話だけど、もう一度ちゃんと話しておきたい」

 

次の休日、修一さんは息子を自宅に招き、自分の考えを伝えました。

 

「この家に一生住めるとは思っていない。でも、今すぐ出ていくつもりもないんだ」

 

健司さんは、以前から父親の転倒や急病を心配していたと話しました。

 

「もし家の中で倒れても、すぐには気づけないかもしれないだろ。だから、元気なうちに住み替えを考えてほしかったんだよ」

 

修一さんは、息子がそこまで心配していたことを初めて知りました。

 

一方で、健司さんも父親が今の地域で築いてきた生活を、十分に考えていなかったと気づいたそうです。

 

2人は、売却の話をいったん保留にし、まず家の中で危険な場所がないか確認することにしました。玄関や浴室の手すり、傷んだ設備の修繕について調べ、緊急時の連絡方法も見直す予定です。

 

また、今後一人での生活が難しくなった場合に備え、近隣の高齢者向け住宅や住み替え費用についても、修一さん自身が情報を集めることになりました。

 

なお、所有者が父親である住宅を、息子が本人の意思に反して勝手に売却することはできません。売却には原則として所有者本人の意思確認や契約手続きが必要です。

 

「いつかは家を離れる日が来るかもしれません。でも、そのときは自分でも納得して決めたいんです」

 

高齢期の住まいを考える際には、住宅の広さや資産価値に加え、本人の生活習慣や地域とのつながり、健康状態なども重要になります。家族が将来を心配することは自然ですが、本人の希望を聞きながら、住み続けるための対策と住み替えの選択肢を一緒に検討していくことが大切でしょう。

 

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