「昨日よりまた減っている」毎日の口座確認がやめられない
ある朝、いつものように銀行のアプリを開くと、投資信託の評価額が大きく下がっていました。それまでも多少の値下がりは経験していましたが、数日間で何万円も減ったのは初めてのことでした。
「最初は、そのうち戻るだろうと思っていました。でも翌日も下がって、その次の日も下がって……」
一時225万円まで増えていた評価額は、約195万円に。投資元本の200万円も下回ってしまいました。
「25万円も利益が出ていたのに、今はマイナスです。あのとき売っておけばよかったと、何度も考えました」
千恵子さんは、それまで週に1回程度だった口座の確認を、毎朝の日課にするようになりました。
夜にも評価額を確認し、値下がりしていると、なかなか気持ちが落ち着かなかったといいます。
金融庁『NISA口座の利用状況に関する調査(令和6年12月末時点)』によると、2024年末時点のNISA口座数は約2,559万口座。このうち70歳代は約284万口座を占めています。
新NISAは18歳以上であれば利用でき、年齢の上限はありません。また、2024年以降に購入した商品の非課税保有期間は無期限です。ただし、投資元本が保証される制度ではなく、値下がりによる損失が生じる可能性があります。
ある日、千恵子さんは息子に電話をかけました。
「やっぱり、利益が出ているうちに売っておけばよかったのかな」
息子は、これから相場がどう動くかはわからないとしたうえで、母親に尋ねたそうです。
「そのお金、近いうちに使う予定はあるの?」
千恵子さんは、しばらく考えました。
投資に回した200万円は、当面の生活費とは分けていた資金です。ただ、今後の医療費や介護費用を考えると、決して失ってもよいお金ではありません。
「使う予定はないけれど、減るのを見るのはやっぱり怖いのよ」
息子との会話をきっかけに、千恵子さんは自分がどの程度の値下がりまで受け入れられるのか、考えるようになりました。
その後、銀行の担当者にも相談し、保有している商品の値動きやリスクについて改めて説明を受けたそうです。
千恵子さんは新たな買い増しをいったん見送り、今後の生活費として必要な預金を確保したうえで、投資を続ける金額を見直すことにしました。
「利益が出ていたときは楽しかったけれど、下がり始めるとこんなに気になるとは思いませんでした。毎日数字を見て不安になるくらいなら、もう少し少ない金額でもよかったのかもしれません」
現在も保有する投資信託の一部は売却せずに残していますが、アプリを開く回数は意識して減らしているといいます。
老後の資産運用では、運用期間や生活費の確保に加え、本人がどの程度の損失に耐えられるかを考えることが重要です。値上がりしているときには気づきにくい不安も、相場が下落すると表面化します。投資額や保有商品のリスクを定期的に確認し、安心して日常生活を送れる範囲で運用することが求められます。
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