(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が介護施設で暮らすようになると、家族が面会の際に好物を差し入れることもあるでしょう。慣れない環境で生活する親に、少しでも楽しみを届けたいと考えるのは自然なことです。しかし、年齢や体調によっては、以前から食べ慣れていたものが思わぬ事故につながる可能性もあります。 ※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。

「今までは大丈夫だったのに」職員が差し入れを断った事情

「もう差し入れは持ってこないでください」

 

突然の言葉に、由紀子さんは戸惑いました。

 

「どうしてですか? 母は毎週楽しみにしているんです。今までは大丈夫だったのに……」

 

職員は、澄江さんが最近、食べ物を飲み込む際にむせることが増えていると説明しました。

 

さらに、数日前には食事中に強くむせ込み、職員が付き添って状態を確認する出来事もあったそうです。

 

「以前は問題なく食べられていたものでも、今は喉に詰まらせる危険があります。お母さまの安全のために、食べ物の持ち込みはいったん控えていただきたいんです」

 

厚生労働省『令和6年(2024年)人口動態統計』によると、「気道閉塞を生じた食物の誤えん」による死亡者数は年間4,383人。このうち65歳以上が3,992人と、約91%を占めています。

 

高齢になると噛む力や飲み込む力が低下し、食べ慣れた食品でも窒息につながるおそれがあります。由紀子さんは説明を聞きながら、少し前の面会を思い出していました。

 

母親がどら焼きを食べる途中で何度かお茶を飲み、「最近は食べるのに時間がかかるね」と笑っていたのです。

 

「あのとき、もっと気にしてあげればよかった。母が喜んでいる顔ばかり見ていて、食べるのが大変になっていることに気づきませんでした」

 

職員は、由紀子さんを責めるつもりはないと話しました。

 

「ご家族がお母さまを大切に思っていることは、私たちにも伝わっています。ただ、今の状態に合った食べ方を確認する必要があります」

 

その後由紀子さんは、施設の看護職員や食事を担当する職員から説明を受け、今後の差し入れについて相談しました。当面は食べ物の持ち込みを控え、状態を確認したうえで、施設が提供できるおやつの種類や形態を検討してもらうことになりました。

 

次の面会で、由紀子さんはお菓子の代わりに、昔の家族写真を持参しました。

 

「今日はどら焼き、ないの?」

 

母親にそう聞かれると、少し胸が痛んだといいます。

 

「今は喉に詰まると危ないから、施設の人と相談しているの。また食べられるものが見つかるといいね」

 

澄江さんは少し残念そうな顔をしましたが、写真を見ると昔の出来事を懐かしそうに話し始めました。

 

「母に何かしてあげたいという気持ちは変わりません。これからは、今の母に合った楽しみを一緒に探していこうと思います」

 

介護施設への差し入れには、施設ごとのルールがあり、本人の健康状態によっても対応が変わります。以前は問題なく食べられていた食品でも、飲み込む力の変化に合わせた注意が必要です。家族が面会時に食べ物を持参する際は、施設の職員に確認し、本人が安全に楽しめる方法を相談することが大切でしょう。

 

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