(※写真はイメージです/PIXTA)

公的年金は原則65歳から受け取れますが、受給開始を遅らせる「繰下げ受給」を選ぶこともできます。長生きに備えて年金額を増やしたいと考える人にとって、有力な選択肢の一つです。しかし、受給開始前に本人が亡くなった場合、家族が受け取れる年金には一定の制限があります。将来の生活を考えて選んだ繰下げ受給が、思わぬ結果につながることもあるのです。 ※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。

「9年分もらえないの?」妻が知った年金の時効

日本年金機構『年金の繰下げ受給』によると、繰下げ待機中に本人が亡くなった場合、遺族が代わりに繰下げ請求をすることはできません。

 

一方、亡くなった人と生計を同じくしていた配偶者などは、未支給年金を請求できる場合があります。

 

このとき支払われるのは、原則として65歳時点の年金額を基に計算した過去の年金です。請求時点から5年以上前の分は、時効によって受け取れなくなります。

 

良子さんが最も驚いたのは、この「5年」という制限でした。

 

「夫は9年ほど受け取っていなかったんです。その分を全部もらえると思っていました」

 

和夫さんの65歳時点の年金見込額を月18万円として計算すると、5年分は約1,080万円です。

 

一方、65歳から74歳までの約9年間に受け取れた年金は、単純計算で約1,944万円。差額の約864万円に相当する4年分は、原則として時効により受け取れません。

 

実際の未支給年金額は、年金額の改定や支払期月、請求時期などによって変わります。

 

「1,000万円以上受け取れるのはありがたいです。でも、夫が元気なうちに受け取っていたら、もっと一緒に使えたお金もあったんですよね」

 

さらに、良子さんが期待していた繰下げによる増額も適用されません。

 

日本年金機構は、繰下げ待機中に亡くなった場合の未支給年金について、65歳時点の年金額を基に決定すると説明しています。

 

なお、70歳以降に本人が過去分をさかのぼって請求する際には「特例的な繰下げみなし増額制度」が適用される場合がありますが、繰下げ待機中に亡くなり、遺族が未支給年金を請求する場合は対象外です。

 

良子さんは、夫の死後、遺族厚生年金についても手続きを進めました。

 

遺族厚生年金は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分などを基に計算されます。繰下げによる増額分は反映されず、65歳以上の妻の場合は、自身の老齢厚生年金との調整も行われます。

 

「夫は私が長生きしたときのことも考えていたんだと思います。でも、こんなことになるなんて、本人も想像していなかったでしょうね」

 

良子さんは、夫が年金を繰り下げた判断そのものを後悔しているわけではないといいます。ただ、受給開始前に亡くなった場合の扱いについて、夫婦でもっと話し合っておけばよかったと感じています。

 

年金の繰下げ受給は、長生きした場合の収入を増やせる制度です。一方、受給開始までの生活費をどう確保するか、途中で亡くなった場合に家族が何を受け取れるかについても確認が必要です。老後の資金計画を立てる際には、年金額の増加だけでなく、健康状態や家族の生活、貯蓄の取り崩しなども踏まえて受給開始時期を考えることが重要です。

 

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