最安値更新のペソ、大統領発言で急反発
10月28日、フィリピン・ペソは対米ドルで反発し、7営業日続いていた過去最安値での引け値更新にいったん歯止めがかかりました。前日の火曜日には1ドル=64ペソ台に突入し、記録的な安値を付けたばかりです。相場の流れを変えたのは、マルコス大統領の発言でした。
大統領は記者団に対し、ペソを「できる限り強く守る」方針を明言し、そのための手段は「すべてそろっている」と強調しました。外貨準備は健全であり、必要な資金は十分に充当できると説明したうえで、国民に冷静な対応を呼びかけています。ペソ安の主因は、原油高とドル高という外的要因だという見立てです。市場関係者は、利益確定の動きに加えて大統領の発言がドル買いを一服させたとみています。季節的な海外送金の増加も、ペソを支える要因になったとの指摘があります。
ただ、今回の反発を相場の転換点と断じるのは早計です。ペソは年初来で8%超下落しており、3月に中東情勢の緊迫化を背景として初めて60ペソ台に乗せて以来、安値更新を繰り返してきました。その3月時点では、マルコス大統領自身が「通貨防衛には限度がある」という趣旨の発言をしていました。当時の姿勢と、今回の「あらゆる手段」という力強い言葉との間にある温度差は、決して小さくありません。
ここで、ペソ安がフィリピン経済に与える影響を整理しておきます。
プラス面としては、まず海外で働くフィリピン人労働者(OFW)からの送金が挙げられます。ドル建てで送られる仕送りはペソ換算で目減りしないため、受け取る家族の購買力が一時的に高まります。また、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業も恩恵を受けます。海外企業からドルで収入を得ながらコストは主にペソで支払うため、収益が膨らみやすくなる構図です。外国人旅行者にとって割安感が出る観光業や、価格競争力が高まる輸出企業にとっても追い風となります。
しかし、マイナス面はそれ以上に重く、広範囲に及びます。フィリピンは燃料や食料、機械類を海外に頼る輸入依存国であり、構造的な貿易赤字が続いています。ペソ安は輸入品価格をそのまま押し上げ、原油高と重なればガソリン代や電気料金、物流費を通じて物価全体を押し上げます。大手電力会社が電気料金の上昇を見込んでいると報じられているのは、その典型的な一例です。
さらに、対外債務の問題も見逃せません。ドル建て債務は、ペソ安が進むほど自国通貨ベースでの返済負担が膨らみます。政府が心理的節目である60ペソの突破を警戒していた背景にも、この債務負担の増大がありました。加えて、通貨下落が外国人投資家の資金引き揚げを誘発し、さらなるペソ安を招くという悪循環も懸念されます。原材料を輸入に頼る国内製造業や、外貨建て借入を抱える一般企業も深刻なコスト増に直面します。
ペソ安の恩恵は送金を受け取る世帯やBPO、観光といった特定分野にとどまる一方、物価上昇の痛みは国民全体に広くのしかかります。輸入依存度の高い国においては、通貨安による輸出拡大効果は限定的であり、むしろインフレ圧力のほうが強く表れやすいのが実情です。
