ペソ安の恩恵を打ち消す「6%超えの物価高」の現実
数字を見ると、その構図は鮮明です。今年2月まで3%を下回っていたペソ建ての送金の前年比伸び率は、中東情勢の緊迫化でペソが下落したことを受け、5月には2桁の伸びまで急加速しました。本来であれば、ドルをペソに替えた時に手元に残るお金が増えるわけですから、家計の消費が活発になってもおかしくありません。しかし、そうはなりませんでした。
理由は、6%を超えるインフレです。8月の消費者物価上昇率は6.1%と、フィリピン中央銀行(BSP)が目標とする3%を6ヵ月連続で上回っています。台風やモンスーンによる野菜やコメの供給混乱、そして原油高を受けた燃料価格の引き上げが背景にあります。実際に、9月後半の精米価格は前年比で24%上昇し、ガソリンは1リットル111ペソまで高騰しました。
つまり、送金額はペソ建てでは増えても、そのペソの購買力が落ちているため、実質的な暮らし向きは改善しないのです。パンテオンのエコノミストは、送金を受け取る家計が支出を必需品へと振り向け、教育費などを切り詰めている兆候があると指摘しています。
さらに、送金そのものの伸びも鈍化しています。ドル建てでの送金の伸びは昨年12月の4.2%をピークに、今年7月には1.9%まで低下しました。中東情勢の悪化が、サウジアラビアやUAE、カタールといった主要な送金元からの流れを細らせていためです。これは政策努力ではどうにもならない不運な要因だと、リポートは述べています。
繰り返される歴史と、フィリピン経済の暗雲
2022年にも、フィリピンは同じ経験をしました。ペソ安と高インフレが同時に進み、名目上の送金増が実質消費につながらなかったのです。歴史は繰り返されています。この状況は、フィリピン経済全体の見通しにも暗い影を落とします。個人消費はGDPの約7割を占める最大のエンジンです。そのエンジンが、消費者信頼感の低迷も相まって、来年まで低調に推移すれば、経済成長は鈍化せざるを得ません。
ペソ安は、一見するとOFWの家族にとっては追い風に見えます。しかし、その恩恵が物価高によって消えてしまっているというのが現在の実態です。
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