懲戒解雇はできるのか
バス代の全額返還の次にA社長が考えたのが、懲戒解雇です。
今回のように、公共交通機関の実費相当額を支給する規程なのに、実際にはその交通機関を利用せず、変更の届出もしないまま手当を受け続けていたのであれば、会社が支給対象ではなかった部分について返還を求めることは考えられます。
ただし、「通勤手当を不正受給した=必ず懲戒解雇できる」というわけではありません。
労働契約法では、懲戒処分について、労働者の行為の性質や態様などに照らし、「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は無効」とされています。解雇についても、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。
実際、通勤手当の不正受給をめぐる裁判でも結論は一様ではありません。重要なのは、不正受給があったかどうかだけではないのです。
そのため、次のような事実を総合的に判断する必要があります。
- 不正受給額
- 不正受給期間
- 最初から差額を得る目的があったのか
- 会社への虚偽説明や隠ぺいがあったか
- 本人が事実を認めているか
- 不正受給金額の返還に応じているか
- 過去の懲戒歴
- 就業規則上の懲戒事由
今回のように10か月で12万円の交通費を不正受給したケースでも、事実確認を十分にせず、社長の怒りだけでいきなり懲戒解雇を選ぶのは危険です。
減給処分なら自由に金額を決められるわけでもない
「解雇まではしないが、罰として給料を減らしたい」という場合にも注意が必要です。
就業規則に基づいて懲戒として減給する場合、労働基準法には上限があります。1回の減給額は、平均賃金1日分の半額までです。また、複数の減給事由がある場合でも、一賃金支払期における減給総額は、その賃金総額の10分の1までと定められています。
「罰として不正受給した12万円を給与から12万円引く」という処理はできません。
不正に受け取った通勤手当の返還と、会社が行う懲戒としての減給は、別々に考える必要があります。
