「あの人、バスじゃなくて毎日自転車で来ていますよ」
従業員20人ほどの会社を経営するA社長から、こんな相談を受けました。
A社長の会社で事務職として勤務するBさん(35歳)は、入社時、会社に「バスを利用して通勤する」と届け出ていました。その申告をもとに、会社側はバスの定期代相当として毎月1万2,000円の通勤手当を支給していました。
ところが、入社から10か月ほど経ったある日、別の従業員からこんな話を聞きます。
「Bさん、毎日自転車で会社に来ていますよ」
会社が確認したところ、Bさんはバスの定期券を購入しておらず、実際にはほぼ毎日、自宅から会社まで自転車で通勤していました。
10か月間で会社がBさんに支給したバス分の通勤手当は、合計12万円です。A社長は納得できません。
「バス代として払っていたのに、実際にはバスに乗っていなかったなんて……。12万円を全額返してもらいたいです。それに、会社をだましていたのなら懲戒解雇にできないのでしょうか」
経営者としてそう考えるのも無理はありません。
しかし、この問題は「不正をしたのだからクビ」と一つにまとめて判断するのではなく、いくつかの問題に分けて考える必要があります。
最初に確認するのは「通勤手当をどう支給する会社なのか」
まず確認すべきなのは、就業規則や賃金規程、通勤手当規程の内容です。
たとえば「会社へ届け出た合理的な通勤経路について、公共交通機関の実費相当額を支給する」というルールにしているのであれば、バスを利用すると申告しながら実際には利用していなかったという事実は重要です。
一方、会社によっては、実際に定期券を購入したかどうかとは関係なく、距離などを基準として一定額を通勤手当として支給している場合もあります。この場合、自転車で通勤していたという事実だけで、直ちに不正受給と決めつけることはできません。
会社としては処分を決める前に、以下の点を確認する必要があります。
- どのような通勤経路・通勤方法を申告していたか
- 通勤手当の支給基準はどうなっているか
- いつから自転車通勤をしていたのか
- 本人が意図的に会社へ事実を隠していたのか
今回のように、公共交通機関の実費相当額を支給する規程なのに、実際にはその交通機関を利用せず、変更の届出もしないまま手当を受け続けていたのであれば、会社が支給対象ではなかった部分について返還を求めることは考えられます。
