日本の法人税率は世界でもトップクラスの高税率で、グローバルなタックス・プランニングが注目されています。今回は、主なタックス・ヘイブンごとのIBC(インターナショナル・ビジネス・カンパニー)の特徴についてお話しします。

約50ヶ所以上にも及ぶ法人税率20%以下の国と地域

タックス・ヘイブンは、地理的にはカリブ海、ヨーロッパ、アジア南太平洋に分かれます。一方、政治・歴史的に見ると、イギリスの王室属領、海外領土、植民地だった国・地域とベルギー、オランダ、ルクセンブルクのベネルクス3国を中心とする国、これらに属さない独立系の国に分かれます。

 

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法人税率20%以下の国・地域は、KPMGの「2014年世界法人税・間接税調査」によると図表1のようになっています。税金の高い国の企業や個人が税金の安い国に資金を移動させる場合、その目的に応じてタックス・ヘイブンにあるいろいろな事業形態を合法的に利用することになります。まずは、IBCです。

アジア・太平洋のIBC

●ラブアン島
アジア・太平洋地域に関しては、最初にラブアン(マレーシア連邦直轄領)のIBCを説明します。ラブアン法人は、1990年ラブアン法人法に準拠してつくるか、マレーシア国外で設立した会社をこの法律によって登録するかのどちらかです。最低資本金制度もなく、1人株主、1人役員(非居住者でも可)も可能ですが、秘書(company secretary)は必要です。

 

この場合の秘書は、社長のスケジュールを切り盛りする秘書ではなく、現地の会社法で提出を求められる書類等を作成したり、保管する人材(外部の会社に秘書業務の代行をアウトソーシングできる国もあります)を意味します。他のタックス・ヘイブンでもほとんど同様です。無記名株式(株主名が記載されない)は認められていません。税金は、純利益の3%か一律2万リンギット(約68万円)かのどちらかを選択できます。ラブアンが帰属するマレーシア連邦は80カ国以上の国と租税条約を結んでいて、日本も含まれていますが、ラブアンに関する取引は日本との租税条約の適用外となっています。

 

●クック諸島
クック諸島のIBCは、1人株主、1人役員(非居住者でも可)、法人役員も可能であり、無記名株式も認められています。株主総会は株主の同意があれば開催の必要はありませんし、海外での開催も可能です。会計帳簿の提出は不要ですが、年次報告は必要です。IBCの税金は免税されます。しかしながら、クック諸島と租税条約を締結している国はありません。年次報告というのは、社名や住所、出資者の住所・氏名・持株数等を1~2ページ程度の届出書に記載・提出するもので、他のタックス・ヘイブンでもほとんど同じです。

 

●バヌアツ
バヌアツは、南太平洋のシェパード諸島の火山島上に位置する共和制国家で、イギリス連邦の加盟国です。バヌアツのIBCは、1人株主、1人役員(非居住者も可)、法人が役員になれますし、無記名株式も認められています。株主総会開催は必要ありません。秘書も不要です。IBCの所得は免税ですが、その取締役は会社の債務返済能力に責任があります。バヌアツには、法人税、所得税、キャピタルゲイン税、相続税などはありません。しかしながら、バヌアツと租税条約を結んでいる国はありません。

 

●香港
香港にはここまでに見てきたような国際会社法は存在しません。香港はそもそも国外源泉所得に課税しない国でもあるので、香港以外でビジネスを行う非居住者が香港に会社をつくり、海外で上げた利益を香港会社に貯めていくことになります。

 

●シンガポール
香港と同様に国際会社法というものは存在しません。また、国外源泉所得非課税国でもあります。香港と異なる点はシンガポールに送金される国外所得に関するものです。シンガポールでは、原則、送金された国外所得に課税されます。ただし、そのなかの配当金、支店の事業所等やサービス所得は、①送金された年度において、その外国の最高法人税率が15%以上であること、②その所得が外国で課税されていること、等の条件を満たせば免税となります。

ヨーロッパのIBC

●ガーンジー(チャンネル諸島:英国王室属領)
ガーンジー法人は2008年会社法により設立されますが、有限責任会社(LLC)がIBCとして使われます。取締役1名、株主2名が必要で、最低資本金制度はありません。

 

●マン島(英国王室属領)
マン島の2006年会社法による法人がIBCとなります。会社登録地はマン島で、取締役1名、株主1名が必要。株主総会の開催は不要、監査は必要ですが、年次報告の提出義務はありません。

 

●キプロス
取締役1名、株主1名が必要。最低払込資本金は1000ユーロ(約14万円)、株主総会の開催は国内に限りません。会社登録地はキプロスで、年次報告の提出が必要です。

 

●マデイラ
マデイラはポルトガル領の諸島マデイラ自治地域にあります。2014ワールドカップサッカーのポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドはこの島の出身です。マデイラIBCは2020年まで法人税が5%であることを保証されています。ただし、現地で1名雇用義務があります。また2年間で7万5000ユーロ(約1050万円)の投資義務があります。投資対象は、知的財産権、不動産、IBCの活動に必要な固定資産です。

 

●アイルランド
法律上はIBCの定義はありません。取締役1名、株主1名が必要で、政府に登録されます。最低払込資本金は1ユーロ。現地での株主総会は不要、監査は必要ですが、小さな会社は免除されます。年次報告の提出が必要となります。

カリブ海のIBC

●バハマ
2000年会社法および2004年改正IBC法により設立できます。取締役1名、株主1名が必要で、IBC法により会社登録されます。最低払込資本金は1USドル、株主総会は世界中のどこでも開けます。帳簿記録もバハマに置く必要はありません。

 

●ケイマン諸島
ケイマン法人には、通常法人と非居住法人があり、通常法人はケイマン内で事業活動し、非居住法人はオフショア事業活動に使われる会社です。この区分けとは別に、免税法人があって、30年間の免税保証が与えられ、取締役1名、株主1名が必要ですが、株式名簿は公開されません。株主総会、取締役会の開催も不要です。

 

●バミューダ
免税法人があり、これがIBCに使われます。取締役は2名必要ですが、秘書1名(バミューダ在住の個人)プラス取締役1名のパターンも認められます。株主は1名が必要で、株式名簿は公開されます。

 

●ブリティッシュ・バージン・アイランド(BVI)
2004年事業会社法によって設立されるビジネスカンパニーがIBCとして利用されます。取締役1名、株主1名が必要ですが、取締役には法人もなれます。

 

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次回は、IBCの利用方法について見ていきます。

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    本連載は、2014年10月1日刊行の書籍『究極のグローバル節税』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
    本連載の内容に関しては正確性を期していますが、内容について保証するものではございません。取引等の最終判断に関しては、税理士または税務署に確認するなどして、ご自身の判断でお願いいたします。

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