夫婦が取り戻した「先に予定を入れる」生活
転機になったのは、長女一家と食事をしていたときでした。旅行の話になり、長女が何気なく尋ねました。
「お父さんたち、今年はどこか行った?」
明子さんは答えようとして、しばらく考え込みました。
日帰りで近郊へ出かけたことはあります。しかし、夫婦だけで泊まりがけの旅行をしたのは、1年以上前でした。
「最近は予定を入れてないの。何かあったときに困るでしょう」
明子さんがそう言うと、長女は驚いた顔をしたといいます。
「そこまでしなくていいよ。私たちも何とかするから」
明子さんにとって意外な言葉でした。
一方、浩一さんには以前から思うところがあったようです。帰宅後、「俺たちが勝手に予定を空けていた部分もあるんじゃないか」と言われました。
「そのとき、確かにそうだと思いました。娘から頼まれることもあったけど、頼まれる前から自分たちの予定を入れなくなっていたんです」
夫婦は改めてカレンダーを見返しました。「孫のため」と空けていた日が、実際に孫を預かった日よりずっと多いことにも気づきました。
夫婦が意識したのは、お金よりも時間でした。
「70歳なら、5年後も10年後も今と同じように旅行できるとは限らないよね、と夫に言われたんです」
そこで夫婦は、孫の世話を一切やめるのではなく、予定の決め方を変えました。
旅行を予約した日は先に長女へ伝え、その期間は対応できないことを共有します。急な発熱などの場合も、まず長女夫婦で調整してもらい、どうしても難しい場合に相談してもらうことにしました。
長女も「今まで頼りすぎていたかもしれない」と話したそうです。
その後、夫婦は久しぶりに3泊4日の旅行を予約しました。
「予約ボタンを押すとき、ちょっと緊張しましたよ。またキャンセルすることになるんじゃないかって。でも、今度は私たちの予定として入れました」
子や孫を支えることと、自分たちの予定を持つことは、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。孫の世話を引き受ける場合でも、まず自分たちの予定を決め、そのうえで無理のない範囲で手伝うという方法もあります。
「頼まれるかもしれない」と予定を空けておくのではなく、できる日とできない日をあらかじめ伝えておくことも、無理なく手助けを続けるためには必要でしょう。
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