「私たちはいつでも行けるから」後回しにしてきた夫婦の予定
「最初は、本当にたまにだったんですよ」
そう話すのは、70歳の明子さん(仮名)です。71歳の夫・浩一さん(仮名)と2人で暮らしています。
夫婦には長男と長女がおり、2人ともすでに独立。車で30分ほどの場所に住む長女には、小学3年生と5歳の子どもがいます。
明子さんが孫の世話をするようになったのは、上の孫が保育園に通っていたころでした。
「熱が出たんだけど、今日だけお願いできない?」
長女から電話があり、仕事を休めないというので預かったのが始まりです。
当時、浩一さんはまだ働いていましたが、明子さんはすでに仕事を辞めていました。予定がなければ保育園への迎えを頼まれることもあり、「困ったときくらいは助けてあげたい」と考えていたそうです。
数年前に浩一さんも退職すると、夫婦には自由な時間が増えました。
年金は2人で月約32万円、貯蓄は約4,500万円。住宅ローンも完済しており、退職後は国内を中心に旅行を楽しもうと話していました。
実際、最初のころは年に3、4回ほど温泉地などへ出かけています。ところが孫が2人になると、長女から頼まれる機会も増えていきました。
保育園や学童への迎え、長女が残業する日の夕食、土曜日の留守番。毎週決まって世話をするわけではありません。それでも、予定を立てようとすると「その日は娘が困るかもしれない」と考えるようになりました。
「娘から『旅行に行かないで』と言われたことはないんです。私のほうが、何かあったらどうしようと思うようになっていたんですよね」
一度、夫婦で2泊3日の旅行を予約した直後、長女から「その週、仕事が忙しくなりそう」と聞いたことがありました。
まだ孫を預かってほしいと頼まれたわけではありません。それでも明子さんは予約をキャンセルしました。
浩一さんから「まだ頼まれてないだろ」と言われても、「私たちは別の日でも行けるんだから」と返したそうです。
別の年には、旅行の前日に下の孫が発熱。長女から翌日の世話を頼まれ、宿をキャンセルしたこともあります。
「仕方ないと思っていました。孫が具合悪いんですから。でも、それが何回か続くと、予約するときに『今度はちゃんと行けるかな』って考えるようになって」
やがて明子さんは、宿泊を伴う旅行そのものをあまり計画しなくなりました。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、子や孫の生活費を「ほとんど負担している」「一部を負担している」と答えた人は合わせて25.2%。また、今後優先的にお金を使いたいものでは、「子や孫のための支出」が25.8%である一方、「趣味やレジャー(旅行等)の費用」も32.4%となっています。高齢期には子や孫のための支出と、自分たちの楽しみの双方を考える人がいることが分かります。
