「持ち続けること」と「守ること」とは同義ではない
今回の事例において、会社を売った判断そのものが誤りだったとはいえません。借入が膨らみ、自宅まで担保に入っている状況なら、会社を売却して社員の雇用や家族の生活資金を守るという選択は十分にあり得ます。
問題だったのは、そこに至るまでを茂が一人で抱え込んだ点でしょう。
「心配をかけたくない」という思いが、いつしか「知らせなくてもいい」という独断に変わっていました。しかし、自宅を担保に入れる行為はもはや社長個人のリスクではありません。また、将来の事業承継を匂わせていたのであれば、子どもの人生設計にも影響します。
経営者が一人で決めるべきことと、家族と共有すべきことには境界線が存在します。トラブルを防ぐためにも、
・自宅などの個人資産を担保に入れる場合
・家族の資産を事業に使う場合
・承継方針を大きく変更する場合
といった重要事項については、あらかじめ「家族に共有するルール」を設けておくべきです。
また、「会社を持ち続けること」と「会社を守ること」は同じではありません。経営権の売却、事業譲渡、不採算部門からの撤退、不動産売却による負債の圧縮など、選択肢は多岐にわたります。
経営者が考えるべきなのは、「会社を残すか、売るか」という二択ではなく、「なにを残し、なにを手放し、誰のリスクを最小化するのか」という全体最適です。
会社を守るために、会社を手放す。――そんな決断が必要になることもあります。だからこそ、「家族のため」という言葉で、自分一人の判断を正当化してはいないか。経営に携わる者として、常に留意しておきたい視点です。
萩原 峻大
東京財託グループ 代表
資産形成・経営アドバイザー
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